不破乃里子(32)-14
「言ってよ。旦那のと俺のと、どっちが気持ちよかったの?」
「あなたのが気持ちいいっ……今までで一番感じるエッチだったっ……」
「だったら、さ」
俺は乃里子の耳元へ、
「旦那さんと別れなよ」
ボリュームを抑えながらも強い語調で囁きかけた。
「このままじゃズルズル離れられなくて破滅するよ? 俺から渡す三百万で借金のケリつけて、旦那さんとすっぱり縁切るんだったら、いつでも俺が相手して、最高のセックスしてあげる」
「んうううぅ……そんなの酷いよぉ……あの人が可哀想……」
泣きそうな乃里子だ。
「優しいんだよね。でもそんな優しさのおかげで旦那さんも気づけないんじゃないの、自分のダメさ加減に。一回突き放してやらないと。
それで眼が覚めるようなら、またヨリを戻してもいいと思うけどね。仮に旦那さんが落ちぶれる一方なら、そんときゃ完全に見放すまでだ。
様子見の間だけ繋ぎで俺が乃里子さんの貪欲なまんこのパートナー務めることになるか、永久にセックスパートナーになるか、それは旦那さん次第……ってのはどうだろうね?」
乃里子がうなだれて、水面に顔を埋めんばかりになっているのは、まんこズリズリの快感だけが原因ではなさそうだった。
湯に鼻水をブレンドさせて乃里子は泣いていた。
「いいの……? そんな、あたしにとって都合のいい条件で……」
「別に、俺だって自分に都合のいい話してるだけだし。乃里子さんの面倒見ること保証するとは口が裂けても言えないから、あくまでセフレ関係としか提示してないよ」
照れ隠しではない。本心なのだが、敢えて壁を作る言い方をしている己の心をよくよく考えると、俺はどうやら乃里子にいい格好がしたいだけではないようだった。
乃里子との会話の中で知った、身を持ち崩しかけているダメ亭主とやらに、俺はやたらと共感してしまっているのだ。
ダメさ加減は相当なものらしいが、それはもしかすると俺が陥っていてもおかしくない境涯ではないだろうか。
甘えられる優しい女が側にいたら、俺も同様のクズに堕しているのではなかろうか。
そんな気がしてならないのだった。
俺が投げ出すつもりになった三百万は、乃里子に恩を売りたくて出す金ではない。
ひょっとするともう一人の俺の姿かもしれないダメ男に、立ち直りのチャンスを与えてやろうという奇妙な「自己救済」の投資に他ならないのであった。
──ずぶ。
唐突に乃里子の中へ侵入すると、バスルームいっぱいによがり声が響いた。
湯船からバシャバシャと湯がこぼれるのもお構いなしに、俺は激しく突き上げた。
馬鹿げた酔狂で貯金をすっからかんにする物好き野郎の、やけくそから繰り出される我武者羅ファックだった。