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「みかげー、そういや吉川が曲できたって言ってたんだけど、お前デモ持ってる?」
教室の出入口はまだまだ混雑していたので、ソイツらがいなくなってから出ようと思った俺は、大きく伸びをしながらみかげの顔を見た。
「うん、だけどそれ家にある」
「何でだよ、今日はサークルあるだろ。持ってこなきゃダメじゃん」
「……だって、吉川が“歌詞ちょっと手直ししたら?”って言うから……」
申し訳なさそうに目を伏せるみかげを見ると、その時の光景が目に浮かぶ。
うちのバンドは、みかげが作詞をして、吉川が作曲をすることが多い。
吉川の作る曲は、本当にかっこいいんだ。
ただ、作詞だけはどうにも苦手らしく、みかげが担当することになったのだが、みかげが詞を書くたび、柔らかな物腰でしっかりダメ出ししてくるらしい。
「またかー。吉川もそうやってダメ出しするなら、自分で作詞もすりゃいいのにな」
「うーん、でも自分は作曲に徹するってのが彼のポリシーみたいだからね」
「で、どんなダメ出しされたんだ?」
「うん……、なんか全体的に暗いって。今回はキャッチーなイメージで作ったから、それに合わせてくれって。いつもの吉川なら、詞に合わせて曲作ってくれるんだけど、今回はメロディーラインが先に浮かんだみたい」
「へー」
「だから、吉川に先にデモ借りて、何度も聴いてるんだけど、なかなかイメージ湧かなくってさ」
そう言いながら、みかげはゆっくり席を立った。
ジャラ、と重ねづけしているゴツいネックレスが擦れる音がした。
「というわけで、あたしは今日はサークル行かない。家で作詞頑張るわ」
力なく手を挙げるみかげの顔は浮かなくて、ちょっぴり可哀想になってくる。
吉川は職人気質だからなー。妥協しないんだろ。
どことなく丸まったみかげの背中に向かって俺は、
「みかげ、よかったら俺も手伝うぞ」
と言った。