エピローグ-1
結局、明彦は増子の見舞いには行かなかった。今更、顔を出せる義理でもない。
5月の連休明け、彼女は息を引き取った。
そして、鬱陶しい梅雨が始まった。
「出掛けんのか?」
「ああ、組合の寄合だ。」
「またか・・」
幾つになっても母親は小言を言う。
「ちょっとはうちん仕事もしてくれへんと。」
「その話は帰ってから聞く。」
時刻は午後3時。女衒仲間の寄合までは時間がある。
明彦はタクシーを捕まえ、少し離れたところにあるお寺に向かった。
(増子さん、長いこと不義理をしてすみません・・)
墓に向かって手を合せていると、「いい加減に嫁はんをもらいなはれ」と言う声が聞こえてきた。
明彦は周囲を見回したが、誰もいなかった。正面を向くと、墓石の上に増子の顔が浮かんでいた。
(了)