ロ-1
「阿部さんの家?」
「そう。帰りたくないんだろう?」
そう、だけど。
なにも言えない私をじっと見つめたまま、視線を外さずに
「マスター、いくら?」
「彼女の分は村田さんと俺のおごり」
「へ、ぇ」
立ち上がって私の手を引っ張った。
「来い。帰りたくないんだろう?」
座っている私を強引に立ち上がらせようとして
「ほら、お前がいると営業妨害になるから」
「え・・・」
「ウチは構わないよ」
「村田さん『準備中』にして行ったぞ」
「へ〜。だから客が来なかったのか」
「知ってたくせに・・・」
さっきの先客の村田さんは帰る時にドアの外の札を『準備中』にしてくれたらしい。
だから、さっき声がしたけどお店に入ってこなかったんだ。
私がここにいたらずっとお店は『準備中』ってことか・・・
「泊めてくれるの?」
「あぁ」
「下心、ない?」
「あのなぁ?下心のないオトコなんかいるかよ」
「・・・・」
いる、よ。
こーちゃんは私と同じベッドに寝ても指一本触れてこなかった!
「いるよ・・・私魅力ないもん」
「・・・何言ってんの?この場でキスしたいぐらいイイ女だけど?」
そう言って私のあごのラインをスッとなぞった。
腰のあたりがゾクッとする。