☆-5
「マスター帰るよ。
今日はその子に付き合ってやって」
そう言って出て行くと
「じゃぁ、1時間だけ付き合おうかな」
と腕時計で時間を確認したあとカウンターの中で椅子に座り
「何でも聞くよ」
そう言って煙草に火を付けて、仕事を放棄したようにワイングラスにワインを注いだ。
「ん〜」
言い渋る私に
「無理に話さなくていいけど。ココからの話は絶対に誰にも言わないって約束する」
「阿部さんにも?」
「もちろん」
そう言って私はなぜか誰にも話した事のないセックスレスの事を話していた。
しばらくするとドアの外で話声が聞こえて「お客さん?」と思って急いで涙を拭くと
「心配しなくていい。うちじゃないよ」
マスターのその言葉に安心していると声はしなくなった。
セックスレスは誰にも言えない悩みだった。
誰かに言って慰めてほしかったけど。誰にも言えなかった。
本当は誰かに「そんなの平気だよ」って言ってほしかった。
平気じゃないって自分が1番良く分かっていたから・・・
きっとその気持ちがオーラになってこーちゃんを苦しめていたのかもしれない。
マスターは自分の気持ちや意見を言葉にする事もなく
「うん」
「うん」
と静かに聞いてくれた。
その時ガチャガチャッと必要以上に慌てた音とともにドアが開いて
私がドアの方を向いて、マスターは腕時計を確かめた。