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人形たちの話
【教師 官能小説】

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全ての岐路-2


 学校を辞めないか、そう訊かれた事がある。
「学校を?」
「無理に古谷君達に付き合う必要はないじゃない。お金なら心配しないで。高卒認定試験に必要な学力も、深町君なら十分に届く範囲よ」
「……両親が何と言うか……逃げるのは悪だっていう古い考えの人だから」
「そこは私が説得するわ。深町君の意思さえあれば」
「……学校、辞めたくないです」
「逃げるのが嫌?」
 僕は数瞬迷って、でも結局こう答えた。
「先生が、先生でいるところを見たいから」
 スケッチブックを取り出し、今まで誰にも見せたことのないページをめくる。
 ――先生が、凛として教壇に立っている姿。
「…………」
「学校にいる間しか、見ることができないから……」
「そう言われたら……何も言えないじゃない」
 ゆっくりと、抱きしめられる。先生の体温。先生の鼓動。先生の吐息。先生の匂い。
 傷が癒えていく、そんな錯覚を引き起こした。そのぐらい、慈愛に満ちた抱擁だった。



 放課後の美術室は、先生が告白してくれたあの日以来、古谷達は来なくなっていた。学校の備品を壊したのが先生にばれて学年主任の耳に入り、こっぴどく叱られたのが原因らしい。いじめは無視するのにそういうことは無視しないのは不思議だった。
 けど大事なのは、先生と二人の時間が学校でも出来たということ。
 放課後、先生は美術室に仕事を持ち込んで僕と二人きりになるのが日課だった。放課後の美術室は打ち捨てられた場所だったから、誰も、生徒も教師も通らない穴場のような場所になっていた。
 基本、無言だった。沈黙の隙間を探して何かを話さないと間が持たないような段階は、とうに過ぎていた。
 先生は仕事、僕はスケッチ。勿論モチーフは先生だった。最初こそ恥ずかしがっていたけど、今では鉛筆の音がしないと落ち着かないらしい。
 たまに職員室に呼ばれるけど、それ以外は美術室にいてくれた。本当は数学教師の先生は数学準備室に詰めていないといけないのだけど、いじめのケアだと言えば、他の数学教師も理解してくれたらしい。それだけ古谷は学校側からも厄介者扱いされているのだ。
 ここは集中して絵が描ける。先生をモチーフにしていたらなおさら。
 それがアダとなった。完全に、油断してたんだ。



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