不倫セックス動画 (2)-1
「ごめんZくん!今日やっぱり会えない」
「どしたの?」
「パパのノー残デーが急な仕事で潰れちゃって、私が早く帰らないといけないの」
会社にも「ノー残デー」という特定曜日の残業を禁止する制度があるが、この場合のそれは夫婦で取り交わしている約束のことである。私もゆきも仕事と家庭両方しっかりやりたい人間なので、夫婦交互に「ノー残デー」なるものを設定し、家事と仕事を平等に負担しあっているのだ。運良く二人とも職場はいわゆる「ホワイト」で、残業はそれほど多くない上に自己の裁量で決められるため、このやり方でうまく回っている。どちらかの繁忙期には他方の「ノー残デー」が続くこともあるし、今日のように緊急で融通し合うこともある。
「そっか。何時に帰りたいの?」
「六時半には」
「もしよかったら送ってくよ。定時に上がれるなら六時には着くと思う」
「そんな悪いよ。電車でも間に合うのに」
「もうそっち向かっててあんまり変わらないから気にしないで!ゆきさんの顔だけでも見たいな」
「そっか、ごめんね……じゃあお願いしようかな!ありがとう」
フレックス勤務のゆきの定時退社時刻は通常五時。ゆきの言う通り電車で帰宅して買い物を済ませても六時半にはまあ間に合う。それから夕飯の支度などして七時か七時半には子どもたちと夕食をとるのが我が家のルーチーンである。私が「ノー残」当番でもこんなもの。車だと、多少渋滞などあったとしてもドア・ツー・ドアで移動できるのでやはり所要時間は似たようなものか。
映像には、以上のメッセージのやり取りが映しだされていた。Zが気を利かせてスマホ画面をカメラに向けて録画してくれたのだ。なんだ今回は浮気なしかと安堵半分、がっかり半分の私。いやでもキスくらいはするだろうな、キスすれば立派な浮気だ――などと考えているとシーンが切り替わり、助手席にゆきが乗り込んできた。
《三回目の浮気 十月第一週》
予想通り、乗車後まもなくキスしたりいちゃつきはじめてしまうゆきとZ。
想定内とはいえ、愛する女性が他の男とキスしたり手を握るのを見るのは、ある意味セックスより辛い。セックスはもう気持ちよくなって理性より性欲が支配する中での行為である。そこではどんな変態性交も「仕方ない」と言えなくもない。対して今ゆきがZとしているキスは、それがどんな控えめな唇の触れ合いであろうとも、十分な理性を伴っている。私への裏切りをはっきり認識しながら行う異性とのキスは、どんな味がするのだろう。人妻としていったい何を思い、夫以外の男と唇を重ね手を繋ぐのか、想像するだけで胸が締め付けられる。
道路は順調に流れている。二人は言葉数こそ少ないが、指は常に絡めあい信号で停止すればキスをする。車が減速するたびに、ゆきがチラッ、チラッとZを見てソワソワするのは生娘のようで初々しく微笑ましい。「ソワソワ」がバレないよう極力平静を装っているくせに、Zと目が合うと表情がパッと明るくなるのが正面からの映像だと丸わかりである。しかも子どものように脚をパタパタさせている。前回もそうだったが嬉しいと自然に動いてしまうらしい。
「ゆきさんなに脚パタパタさせてんの?」Zに指摘されはじめて気が付き、自分でも可笑しかったのか吹き出すゆき。「嬉しくて尻尾振ってる犬みたいで可愛いんだけど」Zにからかわれ、わざとらしく頬を膨らませてそっぽを向くが、「ゆーきさんっ!」と肩をトントンされるとやっぱり嬉しそうに振り向いて結局キスしてしまう。まさにZの犬。下手なラブコメ映画を見せられている気分である。
何気ないこういうやり取りを見ていると、ゆきはZに恋をしてるのだなと切なくなる。恋するゆきは、人妻なのにどうしようもなく愛らしい。何なのだこの女は――三十八歳の乙女チックな恋など一般的にはかなり痛いはず。ところが好きな男の前で照れたりはにかんだりころころ笑うゆきを見ていると、夫の私でさえ、この恋の成就を応援したい気持ちに囚われてしまう。慌てて現実に戻ると、画面の中では、乙女だった妻が汚らしくフェラチオしていたりするのでまったく油断ならないのだが――。
もちろんゆきは私のことも愛してくれている。この女がわずか一ヶ月半で九回もの浮気を犯していたと知った今でさえ、同じ時期に交わした夫婦の営みを思い返せば、妻の愛を疑う気にはなれない。夫のことを愛しながら、他の男にも恋をする妻――最低で最高の妻である。
*
「予定より早く到着しそうだね」
「うん、ありがとう助かったー」
「夕飯の買い物もしてくの?」
「今日はあるもので済ませちゃうつもり」
「じゃあひょっとしてまだちょっと時間あったりする?」
「言っとくけどホテルにはいかないからね」
ジトッとした目でZを見るゆき。
「行きませんよ!もうやだなあー!ただ十五分くらいおしゃべりできたら嬉しいなって」
「なにZくん、ひょっとしてゆきのこと大好きなの???」
嬉しそうにZを煽る。自分だって目がハートマークになっているくせに。脚だってまたパタパタさせているくせに。
「ええ大好きですよ。大好きだから、さ、落ち着いておしゃべりできるとこに行きましょう」
Zが向かった先は我が家の近くにある雑木林。人や車の往来のない鬱蒼とした一角で、とても健全な「おしゃべり」などできそうにない。停車するやいなや唇を重ねるゆきとZ。月明かりだけがかすかに届く車内で、やることは分かりきっていた。
抱きしめ合い舌を絡める。互いの股間をまさぐっている。「Zくん、おしゃべりだけって約束……」「そんなこと言って、ゆきさんこそ何触ってるの?」Zがゆきを後部座席に押しやりながら下半身を露出する。とんでもないサイズのペニスが屹立している。これがいまから私の妻の大切な場所に――。