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人形たちの話
【教師 官能小説】

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人形が人間だったころの話。-3


 ある日、深町君が放課後、美術室に入っていくのを見た。美術室は奥まった場所にあって、この学校は進学校ということもあって、あまり必要な場所ではない。
 それが、深町君とどこか似ている気がした。
「深町君」
 私は呼び掛けた。
「せ、先生!?」
 明らかに狼狽した様子は、怯えた子犬を想像させる。痛みを抑えて、私は笑んだ。
「絵、描いてるんだ?」
 この全てを見通すような透徹とした瞳は、画家志望ということからもあるのかもしれない。感性が私なんかとは違うのだろう。
 ちらりと覗くと、芸術に疎い私でもわかるほど、上手かった。
「凄い、上手ね」
「は、はい」
「ねえ、もっと見せて」
「ど、どうぞ」
「…………」
 ページをめくっていく。どれもこれも素敵だった。
「本当に上手ね。見入っちゃった」
 思わず笑顔になる。そんな光があった。
「これからも、見に来ていい?」
 そう言って、深町君の方を見たら――
「は」
 泣いていた。
「はい」
 愛しい。愛しい。愛しい。愛しい。
 その思い全てを込めて、私は深町君の頭を撫でた。
 髪は柔らかくて、夕日を透き通して輝いていた。



 深町君と普通に教師と生徒でいられた時間は短い。でも大切な時間だったと言い切れる。
「美大行かないのかって?」
 少し戸惑ったように、深町君は考えた。
「そう出来ればいいなとは思います。でも、うちはお金がないし、ダメかも」
 また、現実に打ち砕かれようとしてるのか。何も出来ないのか。
「奨学金制度もあるし、まだ結論は早いわ。深町君は、やりたいことを見つけられた。ならやりたいことをやればいいのよ。深町君なら、それが出来るわ」
 私とは違って、とは言わなかった。
「でも僕なんか」
 すぐに自分を卑下するように言う彼は、どれほど尊厳を打ち砕かれてきたのだろう。
 ――××してやりたい。
 その気持ちに、その時は自分でも気付かなかった。


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