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人形たちの話
【教師 官能小説】

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人形が人間だったころの話。-2

 いじめ問題の論文を読む。私とそりの合わない学長なんかは嫌味を言ってくるけど、実際いじめを何とかできていないのは事実なのだから、正直しょうがないと思う。
「大変ですね」
 同僚が私の手元を見て、適当に話題を振ってくる。私よりは経験のある教師だから、素直にどうするか訊いてみた。
「古谷達ですか? 自分たちも手を焼いています。正直、卒業するまで辛抱するしかないでしょうね」
「一人の生徒を犠牲にして割り切れ、と?」
 いじめの主犯格が卒業するまで何もできない。
 せめて被害が拡大しないように、深町君にはスケープゴートになってもらうしかない。
「まあ生真面目な貴女には、難しいでしょうね。ですが深町のことだけを考えるなら、学校以外の選択肢を与えるしかないでしょう。でも古谷達は、対象を変えるだけでしょうね」
 多分彼も、理想と現実に絶望してきたんだろう。それが、学校を辞めさせるという選択肢に繋がったんだろう。
 唯一の繋がりである学校を、辞めさせる?
 ――私にとっての理想と現実は、いったい何なのだろう。



 何もできないまま、いじめが発覚してから一年と少しが経過していた。教師としての無能さを思い知らされる。
 ああ、わかってる。いじめをどうにかしたいんじゃない。
 私は深町君の“トクベツ”になりたい。私が解決に手を出せないのは、結局欲望を優先しているから。
 でもこれ以上は、引き伸ばせない。
 ――深町君には学校を辞めてもらって、大検を受けてもらおう。
 その話をどう説明するかで私はまた悩む羽目になるけど、大筋の方向性は見えた。場合によっては家庭訪問をして、彼のために授業をしてもいい。数学担当だけど、英語も国語も自信はある。それだけの責任は感じている。
 また彼が、体育用具室に入っていった。
 ……少しだけ。彼が少しでも嫌そうな顔をしたら、即座に去るつもりだった。
「……先生?」
「お昼、一緒に食べていい?」
 実際は心臓がバクバクしていたけど、出てくる言葉は平然とした教師としてのもので、自分には深町君のような純粋さがないことを思い知らされる。
「……はい」
 まだ信用されてはいなかった。当然だと思えた。



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