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いたたまれなくなってお財布から千円札を2枚出した。
「足りなかったら安部さんが出してください」
半分近く残っているシャンティガフをもう一口だけ飲んでそのまま席を立った。
「おい!」
少しだけ慌てた安部さんを無視してコートを着る。
「本当に奢ってもらおうと誘ったんじゃない」
立ち上がって私をひきとめようとする。
「私は奢るつもりでした。ごちそうさまでした」
とマスターに声をかけた。
そんな私に阿部さんは余裕な顔を投げ捨てたように悲しそうな顔をして
「1人で泣くなよ?愛されていると感じさせてくれる男と恋をしろ!」
「阿部!今日はもうやめとけ」
マスターが静かに阿部さんを制して
「今度は安部とじゃなくてひとりでおいで」
ごめんね、と申し訳なさそうな苦笑いで私を送りだしてくれた。
冬の終わりの夜空はまだ冷たくて。
コートの襟元を掻き合わせた。
「行かなきゃよかった」
正論を突かれたからか?
それとも本当に的外れなことなのか・・・
とにかく頭に来た阿部さんのあの言葉は、昨日からのモヤモヤを思い出させた。
お店に入る時はビルの前までタクシーで乗り付けたから関内駅がどっち方面なのか正確によく分からなくなった。
「もう!ここどこよっ!」
大道りではない夜の関内は私の知っている道に出なくて
迷った不安と、寒さと、怒りで
きっと5分足らずの駅までの道のりに20分もかかってしまった。