新体制-1
「本日はお忙しい中、城南市新市長就任会見にお越しいただき誠にありがとうございます。現職の佐川明子市長がご存知の通り、選挙法違反で逮捕された事を受け辞任、新市長選を行う事も検討しましたが立候補者がおらず、暫定的ではありますが決定致しましたのでお知らせ致します。前城南市市長の梶原博之新市長でございます。」
城南市役所で行われている新市長発表会見。市長と元市長の秘書の2人が好奇な事件に巻き込まれる事態になった事と、その2人が組んで体を使い市長選挙を優位な状態に持って言ったと言うスキャンダラスな政治事件も重なり、それはメディアで大きく取り上げられ、今や全国から注目を集めてしまっている。地元のみならず東京からもテレビ局が来ると言う騒ぎの中、会見で新市長が発表された。
「えー、只今ご紹介にあずかりました前市長の梶山博之でございます。本日はお忙しい中、誠にありがとうございます。この事件を受けすぐに市長への復帰の依頼をいただきましたが、固辞致しました。それは8年に渡りこの城南市の市長としてもっともっと良い街にしようと必死で頑張って来た結果が、あのような卑怯な手一つで負けてしまった事が、私自身大きなショックを受けたからです。選挙に敗れた後、自分がしてきた事は市民にとって市長を任せられると思っていただける程のものではなかったのではないか、そう毎日考えておりました。そんな時、あのような卑怯な手を使った女性に負けたと知り更にショックを受け、もう市政に関わるのはやめよう、そう決めました。そんな時、私の時代から副市長を務めておられます増田拓也副市長から連絡があり、市長に復帰して欲しいとの打診がありました。しかし私は先程述べた理由により固辞致しました。選挙選は行わないとの事でしたので副市長の増田君が昇格すればいいだろうと。しかし増田君は毎日私の元へやって来ては復帰の要請をしました。そんな中、2人で力を合わせながら、この城南市を過去の忌々しい事件のイメージを払拭させようと血と汗を流して奮闘して来た過去を振り返り、やはり私のして来た事は間違っていなかったんだと思い始めた時に、市民から私が復職を願う嘆願書と署名が届けられ、私はそれを見た時、涙が止まりませんでした。自分がして来た事が市民の皆様に評価されている事を知った時、この愛する城南市を再び誰もが住みたい、来たいと思えるような街にするんだと言う意欲が溢れて参りました。そのような経緯で私は市長に復帰する事を決めました。城南市には悪いイメージがいつも付き纏ってます。しかし今城南市に住んでいる方々は素晴らしい方ばかりです。私はこの愛すべき素晴らしい城南市の住民の方々が胸を張って暮らせるような街に死ぬまで力を尽くす事をお約束致します。これからもどうぞ宜しくお願い致します。」
深々と頭を下げる梶山に、パチパチと湧き起きた拍手は次第に割れんばかりの拍手へと変わって行ったのであった。
その様子を影からひっそりと見つめていた若菜の胸にも梶山の想いはグッとくるものがあったのであった。