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THE UNARMED
【悲恋 恋愛小説】

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THE UNARMED-1

1. 序―ひとつの戦いの後で
血の臭い――此処は戦場。
そこにあるのは剣と血、そして骸。そこに渦巻くは殺意、情欲、そして虚無感。

全てが終わった後、俺の心に残るのは何だと言うのだろう。
……それはきっと、何か荒んだものだ。
ひとつの戦いの後、俺は今にもこの女をくびり殺そうとしている。
荒んだ何かが俺をそうさせる。


「放せ、これは命令だ」
女の凛とした声。
首を掴まれてもなお冷静なその声色が余計に俺を苛立たせる。
「……隊長の命令には従うものだ、ガルム・ヴィクセル」
俺の名を呼ぶその女はいつでもこうだ。すました顔、表情ひとつ変えやしない。
今この状態で、普通の女なら叫んだり泣いたりはしないか?
女の瞳はまっすぐに俺を射抜く。俺は顔を歪める。
くそったれ。
少しくらい抵抗したらどうだ?
それなら俺のこの荒んだ何かも掻き消えるかもしれない。
泣いて叫んで許しを請えば、俺は嘲りの気持ちでこの女を見下せるかもしれない。
しかしそれが無理だ。この女は普通の女ではない。
俺は口元を歪めて吐き捨てた。
「女の命令になんか従えるか」
女は眉を少しだけ動かした。
「……女の命令だから、と?」

「戦場は男の場だ。いくら隊長と言え、お前みたいな女が出て来るところじゃない」
「貴様は……」
女は言いかけて――。
「うぐ……ッ!」
俺の股間を思い切り蹴り上げた。
「……貴様は、度胸のある奴だ。女でありながら一隊の長を任せられた私にそのような口を利ける者はそういない」
解放された首に軽く触れながら、女は言った。
俺は情けなくも股間を押さえて女を睨み付ける。
目の端に涙さえ浮かべながらの俺に、女は嘲るように笑った。
「だが、その言い方は少々勘に触る。『女だから』『女のくせに』と言う言葉は好きではない」
どうしようもない痛みに、ついにその場にくずおれた俺を見下ろして、女は吐き捨てる。
「それに、女も便利ではあるぞ。そのような痛みを味わうことはないしな」
(くそったれ……!)
俺は言葉にならない憤り――痛みのせいで本当に言葉に出来なかったが――を奴に叩き付ける。
しかし女は相変わらず冷たく俺を見下ろした後、踵を返して去って行った。

「くそ……った、れ……!!」
ようやっと言葉を搾り出した時には、女は既にいなくなった後だった。



2. 出会い、再会い
俺の名はガルム・ヴィクセル。
ガルシア国軍第三傭兵団に属する傭兵だ。
そしてそんな俺が向けている怒りの矛先と言うのが、ガルシア国軍騎士長レイチェル・ギルガ。
一旦休戦条約が結ばれたガルシア王国とヴァナ=ジャヤ国の戦争であるが、次の戦いから軍の編制が変わり、この女騎士長が俺達第三傭兵団隊を指揮することになっていた。
ガルシア国に雇われた幾つかの傭兵団、その殆どがガルシア王国か、ヴァナ=ジャヤとは宗教上の理由で敵対関係にある国の出身である。
だからガルシア国軍も、今回の戦いばかりは傭兵を直接軍に組み込んでおり、上でそれを纏めることになっているようだった。


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