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液浸
【SM 官能小説】

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液浸-2

避暑地にある、とりわけ森の奥にある彼女の別荘は、遠くの山脈の一帯を眺められる林の斜面
に建ち、小さなプールに続くウッドデッキのテラスは、太陽の光を遮る心地よい木陰に包まれ
ていた。
カヅエが別れた妻の母親であったとしても、その別荘で《彼女が彼に命じた日々の行為》を、
彼はけっして受け入れがたいことであるとは思っていなかった。行為は、彼にとって特別の充
たされた時間でもあり、彼は自分の中にふつふつと湧きあがる甘美な官能をその行為の中に
掬いあげていった。

カヅエと別荘にいるあいだ、彼女が彼に命じたことは、朝、彼女が目を覚ます前、彼女の下着
をそろえておくこと、靴を磨いておくこと、目を覚まし、シャワーを浴びた彼女の体をバスタ
オルで丹念に拭きあげること、そして彼女の足首に愛おしく接吻し安らぎを与えること。

そして、カヅエといっしょに森を散策し、ともに食事の時間をすごし、テラスでカヅエの話を
聞き、ときに別荘のプールで戯れ、夜、彼女を抱きかかえてベッドに導き、彼女の身体のあら
ゆる突起と窪みの部分を愛撫し、彼女が必要とする性的な交わりに身をゆだね、彼女を心地よ
い眠りにつかせることだった。


あの頃、妻は彼がカヅエといっしょにいることを嫌がった。どんな場所でも、どんな場面でも。
そして何よりも彼が不自然にカヅエに向ける情欲に充ちた視線を嫌悪した。なぜならあの頃か
ら彼はすでにカヅエに対して隷属的な存在であったからだった。

そんなことが赦されるとは思っていなかった。妻と結婚して三年目だった。この別荘で彼はカ
ヅエと交わった。求めてきたのはカヅエの方だった。彼女はそのとき、すでに六十歳を過ぎて
いたが、自分の娘の夫である彼を、まるで失いかけた恋人のように、自分を裏切った恋人のよ
うに、そして奪われた恋人を取り戻すように貪った。

彼はけっして妻を裏切ったとは思っていなかった。なぜならどれほど彼が妻を愛しているのか、
これからどれほど妻を愛し続けられるか、少なくとも《彼は妻に対する愛の無意味さ》をカヅ
エに知らされたからだった。

何かが殻に閉ざされた妻との生活……すでに妻に対する彼の愛の輪郭はぼやけ、ゆらぎ、意味
が失われたことに彼は気がついていた。彼は愛を装った。意味を失った愛の中でもがき、苦し
んだ。それでも彼は、平静を装い、《きわめて健全な夫婦の愛の生活》を、偽りの生活を無責
任に続けた。



白樺の木陰がざわざわと音をたてる。響きは森の静寂にのみこまれていく。砕けた白い雲がさ
らさらと青い空を流れていく。風はいつのまにか藍色に染まる。

カヅエといつものように森の散策に出かけた。夏の終わり、避暑地の客はまばらで、森の中で
人と出会うことがなくなった。 

彼とカヅエは誰もいない森の中で肩を寄せあい、互いの手を握りあい、指を深く絡めた。まる
で恋人のように。たまにすれ違う顔見知りの老夫婦も、おそらく親子ほどの歳が離れた彼とカ
ヅエを見て、母親とその実の息子という仲睦ましい姿であるという疑いのない、微笑ましい眼
差しを投げていった。彼とカヅエは誰もいない野苺の匂いが香りたつ草むらで睦みあい、快楽
の記憶をたどるように戯れた。


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