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液浸
【SM 官能小説】

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液浸-3

森に零れる光は、カヅエの身体を妖艶に冴えさせた。七十歳の老女の肌とは思えないほど奥深
い白さと翳りを湛えた彼女のからだは、とけかかった雪のように幽かな情念を溜めていた。
背筋がすっと伸びた身体の輪郭は、優柔で脆い肉の起状を描きながらも、いまだに十分過ぎる
女の情感を孕み、霏々として彼に迫りながら琥珀色に色あいを変幻させていた。

彼女は黒々とした瞳に淫蕩な視線をひらめかせ、彼を抱き寄せた。堅くも柔らかくもないカヅ
エの身体は、衣服の生地をとおして彼の肉体に淫らに、濃厚に、執拗に絡みついてきた。弾力
を失った脆い胸のふくらみと下腹部のかさかさとした窪みがねばりつき、腿がこすれ、薄肉で
覆われた鶏のような脚が絡まってきた。

彼は知らずしらずのうちに、自分の中から去っていったものを想い起こしていた。それは甘美
に湧きあがってくる、《きわめて性的なものを削がれていく》淫猥な至福感だった。

カヅエの手が彼の頬をなでる。彼女の冷たい掌が彼の顔を粘膜に包んだように盲目にする。
彼は支配的な彼女の指から逃れられない。彼女に心まで裸にされてしまう、かつて妻の前で
けっして見せることがなかった淫らな心に。それでもその淫らさは、とても従順で澄み切った
ものだった。カヅエに隷属することで、自分の中に潜む性体をはっきりと、とらえることがで
きるような気がした。視覚も、嗅覚も、性感も、皮膚感も、すべての感覚がカヅエという存在
によって性的に研ぎ澄まされ、彼の中に閉じ込められた欲情は、逆に肥大し、鮮明な色彩をも
つようになっていった。それは彼が妻と別れて初めて《女性という存在》に感じたものだった。


カヅエの唇はつやつやと湿っている。彼女が狂おしく求める接吻。彼はカヅエの細身の肩を抱
き、求められるままに唇を寄せる。彼女の唇から滲み出す蜜のような唾液が彼の唇を溶かし、
口腔を毒々しく充たしていく。彼女の唇の湿り気を十分に吸い取った彼は、カヅエの身体の
隅々への愛撫へ向かおうとしていた。

カヅエは求めていた……まるで彼女の孤独の中にある棘を癒すように、そして肉体の奥に澱ん
だ水を掻き立て、沈み込んだ藻をゆらし、ふたたび記憶の中の性を目覚めさせるように。

森のまどろみの中でカヅエと彼のからだが愛おしく絡み合う。近すぎる彼女の切れ長の目に
潜む瞳がおぼろげな光を湛え、妖しい毒を含んだように結晶し始める。整った鼻筋と唇と滑ら
かな線を描いたあご……漠として拡がるカヅエの顔全体が不安定な、荒涼とした官能の生彩を
ひとつの旋律として奏でる。

ふたりの体の隙間を、黄昏に包まれた樹木をそよがせた甘い風が、迷い込むようにすり抜けて
いく……。

彼のものがカヅエの中に深く吸い込まれていく。互いの肉が情念を漲らせ、戯れる。カヅエの
微かな喘ぎが沢の水音と重なりあって鮮明に聞こえてくる。悶々とした彼の身体の中に彼女の
体温が森の中から聞こえてくる木霊を運んでくる。そのとき彼は、瑞々しく湧き上がってきた
ものをカヅエの中に注ぎ込んだ……。




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