Sweet Fragrance3-3
その表情を思い出して、悔しく、切なくなりながら、あたしは顔を上げる。選択授業の理系数学の時間。他のクラスの理系の子とも一緒の授業である。黒板の前では、永井達也が数学と戦っている。
「はぁ〜、ひでぇ問題。」
先生もみんなも笑っている。あたしはふと思いついて、隣に座る沢田未紀ちゃんに話し掛けた。彼女は中西まどかの親友だ。
「中西さん、あの人と付き合うそうね?」
真面目に問題を解いていた未紀が顔を上げる。
「あの人…?」
「永井くん。」
知らないのかなあ。
「あぁ、まどかはずっと好きでね、前コクったら、まどかの香水がゆかりちゃんのと同じだからって、切なそうに抱き締められたらしいよ」
え…
「あぁーそうなの。噂できいたんだけど嘘だったのね」
明るく言って黒板に向き直る。彼は秀才の男子にバトンタッチしたらしく、笑顔で教壇を下りていた。
ふーん、そうか。あたしの敵は…やっぱりゆかりちゃん。可愛くて、モテる、お友達のゆかりちゃん。勝てない。ぜったい、勝てないなぁ。