翔べない鷹は愛しきかな――僕はあの日常を絶対忘れない。――-6
僕は養護教員になり、加奈は看護士をしながら愛里を育てている。
「今日休みとれてホント良かったー。」
「僕もだよ。まぁ最悪の場合、夜来るってのもアリだけど。」
「だめだよー!それじゃタカちゃんに愛里を見せられないもん。」
「あぁ、そういえばココに愛里連れてくるの初めてだね。」
「…うん。」
愛里は無邪気に墓石に彫られた文字を見つめている。
タカ、タカがあんなに見たがっていた加奈の子供だよ。
残念ながらタカの子供じゃなければ、当然僕の子供でもないけれど。
「そういえば今日、旦那さんは?」
「ん?あぁ、仕事。ファミレスの社員って休みあんまないのよね。土日は必ず出勤だし。」
「ふーん…大変なんだね。」
「ん、でも大丈夫!ラブラブだから。」
「や、そこは心配してないから。」
笑いながら、僕達はタカのお墓の前に座った。
そしてふと加奈を見た。
綺麗になったなぁ。高校生の時は可愛い感じだったのに。
僕もこんなお嫁さんがほしいよ。…なんてね。
「ずっと前さぁ」
加奈の口が急に開いて僕はびくっとなる。
「タカちゃんのお葬式の時かな。翔さぁ、なにげに私に告ってきたよね。」
「えっ!?」
「あれってどうなったのー?」
くそぅ、覚えてたのか…。
「…別にどうもなってないでしょ。」
「ふぅーん。彼女にしたいって思わなかったの?」
「思った、かな?」
「なーによ、それ。告れば良かったのにー。」
「や、タカの事好きだったじゃん。」
僕がそう言うと、加奈は空を見上げて言った。
「でもわかんないよー?私だって10年前はタカちゃんしかいないって思ったけど、結局違う人を好きになっちゃうんだもん。そんなもんなのよ。」
「…そんなもんね…。でもやっぱり僕はタカの加奈をとれないよ。」
「譲ったって事ー?」
今度は僕が空を見上げる。
そんなんじゃないんだ。
譲ったわけじゃないさ。
「タカの事が好きだったから、タカが幸せで嬉しかっただけだよ。」
「…翔ってそういう趣味だったの?」
「違うっ!変な意味でとらないでよ。」
「あははっ、冗談だよ。なんとなく分かるよ、それ。多分私が翔に思う気持ちと一緒なんだと思うな。」
加奈は視線を僕に戻して、満面の笑みで言った。
「…そっか。」
まぁ、本音を言うと加奈に告白しなかったのは、タカに勝てる自信がなかったのと2人を失いたくなかったからなんだけどね。
あの頃の僕は本当に臆病者だったから。
僕がタカを想う気持ちと加奈が僕を想う気持ちは一緒、か。
さりげなくフラれてしまったな。いや、決着が着いたとでも言うべきか。
でも今ならそれを受け止められるよ。今ならタカと戦えるよ。
ねぇ、タカ。僕は強くなったかな?
ねぇ、いつものあの当たり前だったあの頃を覚えてる?