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翔べない鷹は愛しきかな――僕はあの日常を絶対忘れない。――
【悲恋 恋愛小説】

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翔べない鷹は愛しきかな――僕はあの日常を絶対忘れない。――-4

「翔っ!どうしてあそこでシュートしなかったのよ!」
「ホントだよ。俺がせっかく最高のパスをおくったのに。」
「なんだよ、2人して。たかが中学のサッカーでしょ。」
「たかが中学のサッカーなんだから1点ぐらい入れてよね。」
「…だって、タカが入れると思ったんだもん。」
「あのねぇ、タカちゃんだってパスぐらい出すわよ。大体あんなに囲まれたらいくらタカちゃんでもシュートできるわけないでしょー!」
……こういう時の加奈はホントにうるさい。
「あのなぁ、翔。いつまでも俺を頼りにすんなよ。ま、確かに頼りになるけどなっ。」
「…なんだそれ。」
分かってるよ。
前はタカに着いて行けば良かったけど、僕はもう中学生で1人の男なんだ。
自分の意思だってある。
「いつまでも俺の後ろ歩いてるなよ?」
……分かってるよ。



「加奈っ!」
僕は勢いよく加奈の部屋のドアを開けた。
加奈は机に向かって勉強していた。
「翔、今勉強中だよー?」
妙に落ち着いている。僕は想像と違って少し戸惑った。
「……加奈、タ、タカの通夜は…」
「あぁ、タカちゃん?今日は会ってないんだよね。」
「え…?」
「でも昨日クレープ食べに行く約束して16時に待ち合わせしてるんだ。翔も来る?」
「…加奈?」
「あっ、でもさぁ夏休みは3人で遊ぼうね。去年みたいに海も行きたいなぁ。」
「…………。」
おかしい。おかしすぎる。
加奈は真顔で淡々と喋る。

これは僕が1番なってほしくない事態だった。
タカ、僕はどうしたらいい?
タカだったらどうする?いっそ僕も加奈みたいになってしまいたい。


『いつまでも俺の後ろ歩いてんなよ?』


分かってるよ、タカ。僕はもうタカの背中は見ない。
僕は僕だ。
「加奈、タカは…タカは死んだんだ…。」
僕は自分で言って気付いた。
そうだタカは死んだんだ。
でも死ぬってなんだ?ホントにタカはもういないの?ねぇ、タカ早く来てくれよ。
早く嘘だと言ってくれ…。
「うそ…だぁ。」
加奈が弱々しく言う。
でも、嘘じゃない。
「タカは…死んだ。もう、いないんだ。」
「…冗談でしょ?翔ってば冗談言えるようになったんだぁ。」
加奈分かってくれ。
加奈がそんなんでもタカはどうしようもできないんだよ?
いつもみたいに笑ってやる事も、励ましてやる事もできないタカは可哀相だろ?
お願いだから納得してタカをおくってやろう?
「加奈、来て。」
目の前ではタカが横になっている。
みんな忙しそうに外に出ていてこの空間にいるのは僕ら3人だけ。
最後の最高のメンバー。

だから、ねぇ、加奈。前を見て。
「嫌だっ!離して、翔!見たくないよ!」
僕は必死で加奈の腕を掴む。
「嫌だ?」
「嫌よ!だって…だって私をかばったから…!だからタカちゃんが死んだのよ!私がっ…タカちゃんを殺した!」
「違うよ!だってそれはっ…」
タカの意思だろ?
僕にはなかった、強い気持ち。
ずっと欲しかった気持ち。憧れていた気持ち。
タカが、持ってる気持ち。
「何が違うのよ!タカちゃんはもういない!どこにもいないのぉ!…っく。」
加奈の涙を初めて見た。
あんなに強かった加奈が、
「昨日までは笑ってくれたのに…っ」
こんなに弱くなった。
「…いっそ」
タカ、僕はタカになりたいよ。


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