ひきこもり-1
「お兄さん、こんばんは。」
夕食どきに呼び鈴が鳴ったので、出てみると女の子だった。小学校五年生か六年生だろう。だが、金髪碧眼の美しい姿をしている。面識はなかった。そもそも、外国人の知り合いなど、僕にはいない。
「こんな時間に、どうしたの?」
「毎日あたしのこと、何度も呼んでるでしょう?」
「ごめん、君のこと、知らないんだけど。」
「あたし? プラジュニャーパーラミターナヤシャタパンチャシャティカー。」
「覚えられない。」
「中、入ってもいい?」
暦の上こそ春だとは言え、感覚的にはまだまだ冬だ。それなのに、少女は初夏のような薄着だった。
「ああ、寒い。ストーブ、点いてる?」
「何だかよく分からないけど、一人なの?」
少女は遠慮なく僕の部屋に入ってきてから
「当たり前でしょ。」
どんどん服を脱ぎ出した。子供らしく、まとめて一気に上を全部脱ぎ捨てた。何か言いかけた僕が、まず小さな胸に気を取られ、黙ったことをしっかり気取った少女は、白い歯を見せて笑った。
「何するつもり? 寒いんでしょ?」
「何って? 寒くなくなること。」
返した時には下も脱ぎ終わっていた。
少女は真向きに僕の前へ立って言った。
「あたし、今日からここで暮らす。そんな夢、見なかった?」
僕を畳に座らせた少女は、その白い腿のあいだに、僕の頭を引き寄せた。
僕は四月に大学へ入り、一人暮らしを始めた。知り合いもいない遠くの町だった。思い切って、簡単に帰省できない所を選んだのだが、大学でも友達はできなかった。
高校を優等生で通っていた僕は、一方的な語り口の大学の講義に、すぐ違和感を覚えた。しばらく行かないでいる内に夏休みを迎え、秋になる頃には、通う気も失せてしまっていた。楽しい事もなく、時間は映画を観るように過ぎていった。外出さえやめてしまい、ネットの世界に引きこもった。
それでも、試験だけには目ざとくて、いくつかの講義は既に単位が取れている筈だった。だから留年はない。
ネットも別段、楽しくてしていた訳ではなかった。パソコンから離れて、ぼうっとしている時間が増えていった。
やがて、自分と関わりなく流れ去っていく周囲を脇目に、僕は「本当の友達」を、もっと言うなら「本当の恋人」を心に空想するようになった。実際には、異性と付き合った事のない僕にとって、「本当」も何も有りはしない話だったが、僕は、分かり合える友人と恋人との混ざり合った存在を毎晩思い浮かべては、対話し、物語を作っていたのだった。恋人だから、セックスも勿論、空想で、した。
空想の相手は確かに、金髪の長い、元気なポニーテールの小学生だった。名前をアンと付けていた。
そのアンが、夢から出て現れたというのだ。
「何でもしていいよ。」
最初から間をとらせる事なく、女の子のところへ導かれた僕は、不思議な切れ込みに自然と口づけしていた。
「ん」
アンが短く声を漏らした。立っているアンを僕は寝かせて、脚を持ち上げた。本物の女の子だった。
「そこ、お兄さんのだよ。」
口元で香るお尻の穴が愛しくて、鼻を寄せた。それから舌を入れてみた。深く、差し込んだ。女の子の閉じた溝に押し付けられた僕の鼻に、濃いおしっこのにおいが満ち溢れた。