絡まる糸-1
『……いまの声は……? なにごとです!? 焔……っ!!』
遠くに聞こえたと思った麗の声が焦りの色を滲ませてどんどん近づいてくる。
(……麗先生の声……っ!!)
バッと目を開いたまりあは数ミリ先に迫る焔の唇から逃れようと思いきり顔を背けた。
「逃がすかよ」
「な、なにっ!?」
ボソリと呟かれた言葉の意味など理解したくもないが、さらに体を密着させてきた焔の膝が両足の間に割って入る。
「お前の初めて(ファーストキス)……貰うぞ」
それまでゆっくり近づいてきた焔の顔が速度を増してまりあの上に落ちてくる。熱が微かに触れた……と思った瞬間――!
――ガチャッ
「焔っ!?」
「……っ! きゃぁあああっ!?」
麗の声と共に放たれた扉。
背後に支えを失ったまりあは地獄に突き落とされたように勢いよく後方に倒れ込んだ。
「……あいたたっ……」
盛大に尻餅をついた少女はスカートがめくれたまま打ち付けた痛みに動けないでいる。
(……こ、腰がっ! お尻より腰が痛いなんて……っ! 体重のせいっ!?)
「…………」
別な意味でショックを受けているまりあを驚いたように見つめていた青年の瞳が、やがて心を乱したように揺れはじめる。
「……まり、あ?」
途切れ途切れの胸を締め付けるような美しい声がまりあの頭上に降り注ぎ、顔を上げたまりあの瞳に映ったのは――
「は、はい……」
転倒したことにより一時的に頭が真っ白になったまりあは、その声が麗だと気づくことなく声の主と視線を絡ませる。
「うるはせんせい……?」
「……彼の部屋で……一体何をっ……」
「何って、別に何も……」
ギリリッと歯を噛みしめ、怒りの色を強めていく麗。ド派手に転倒したこの姿を笑われるのは仕方がないと覚悟したが、麗の真逆の表情に頭は混乱し始める。
(どうして? どうして麗先生怒ってるの……?)
「…………」
言い訳もせずポカンと口を開けているまりあのスカートを直しながら先に動いたのは半裸の焔だった。
「いつまでガキ臭せぇ下着見せてんだ。さっさと立ちやがれ」
「えっ!? あ、ありが……とう、なんて言いたくないけど……」
元々はこうなる原因を作った張本人に礼を言うのはおかしいが、スカートがめくれていたことに気づかなかったまりあは裾を直してくれた焔にモゴモゴと口ごもりながら差し出された手に有難く手の平を乗せる。
すると、勝ち誇ったような挑発的な笑みを浮かべた焔が麗を振り返り……
「お前と慶がよろしくヤってんのを聞いちまった可哀想なまりあを俺が慰めてやってただけだ」
「……っ貴様っっ!!」
急激に目を吊り上げた麗は突然声を張り上げ、荒ぶる感情のままに焔へと拳を振りかざした――。