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純白のマリアと漆黒のまりあ
【ファンタジー 官能小説】

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開中 鳥羽(とば)翼(つばさ)-1

(翼くん……小鳥のイメージかも。声も歌ってるみたいに心地よくて……)

「そっか、翼くんっていうんだね。ひとつしか違わないなんて……えーっと、なんていうか……」

(もう少し年下かと思った)

 とは言えず、笑ってごまかす。

「……子供っぽいですか? 僕……」

 ちょっと気を損ねたように上目使いで問われ、母性を刺激されたまりあは彼の表情にムズムズと心臓がくすぐられる感覚を覚える。

「う、……ううんっ! 素直そうで可愛いなぁって思ってただけ」

「……いいんです。僕、いつもそう言われてるので……」

 寂しそうにカップへと口を付けた翼。
 ひとつひとつの言動や仕草がまりあの母性本能に火を灯らせていく。

「で、でもっ!
いやらしくて手が早くて!! すぐキスしようとする人たちより全然好感度高いけどなっっ! 大人なんて不潔よ不潔っ!!」

 いまでも腸が煮え繰り返るような男たちの顔を思い浮かべながら手摺に置いた手と声に力を込める。

「……まりあ先輩、もしかして誰かのことを指して言ってます?」

「へ?」

 キョトンとして問われ、彼もまたこの寮生であることを思い出したまりあは余計な心配をかけまいと話を薄く広げる。

「ううん、世間一般に……全体的に! の話よっ」

「ははっ変なの」

 翼に曇りのない笑みを向けられ、追及されずに済んだまりあは安堵しながら”そうだね”と笑い返す。

「そういえば翼くんは寮生活長いの? おうちが遠いとか?」

「あ……はい、ここでの生活は長いです。家にはほとんど帰りません」

「そうなんだ……あ、私ももう帰れる家ないから、長期休みで皆が帰省したら翼くんと二人きりかもね」

 寂しいという感覚が自分にあるのかどうか今でもわからない。それでも物心ついた頃から住み慣れた場所を離れるのは、なんというか自分の記憶の一部を抜かれてしまったようで……たまにその断片を探して歩き回りたくなる。

「……僕とふたりきりじゃ寂しいですか?」

 眉を下げて声色を落とす彼にまりあは目を見開く。
 出会って間もないのに、そんなことを言ってくれる翼のなんて人懐っこいことか。しかしそれが誤解を招いての言葉だと悪いため慌てて否定する。

「ううんっ! そうじゃないの。むしろそのほうが……危険な人たちに会わないし安心して過ごせそうだなって」

(ここじゃ部屋に戻ったら、いつ変態焔が来るかわかんないし……)

 少し冷えてしまったカフェラテを覗き込みながら不安を吐露する。
 そんなまりあの気持ちを知ってか知らずか、手摺に置かれたまりあの手に手を重ねながら口を開いた。

「……心細いのなら……僕の部屋に来ませんか?」

「……私が翼くんの部屋に……?」

(もしかして翼くん、私が入学初日だから気を使ってくれてるのかな? それとも何か別の……)

「実はさっきの声、聞こえてました。それで他の先輩たちと何かあったのかなって……」

「……あ、ごめんね?」

 ここまで聞こえるとは、自分の声はどれほどのものだろうと恥ずかしくなりながら照れ笑いでごまかす。まさか話の内容までは……と蒼褪めながら翼の顔を盗み見た。

「いいえ! それに絵を描くならここじゃ何も見えませんし」

「うん。それもそうだね……」

(今日は月が出ていないせいか、本当になにも見えない……)

「闇の中で真実を見つけるつもりなら決して闇に呑まれてはいけません」

 急に口調が大人っぽくなった翼にまりあは首を傾げる。


「うん? どういう意味?」


「……貴方が忘れてしまった遠い昔の話です」




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