謎の美少女・慶(けい)-1
「私ばかり置いてきぼりなんてひどいです! 私たちずっと一緒でしたのに!!」
(……ずっと一緒?)
――ズキン……
(なんだろ、胸が……)
まりあにはわからない。人とあまり関わって来なかった彼女が自身の経験からこの胸の軋みを探り当てることは出来ないのだ。
「……慶(けい)……貴方まで来るとは一体何ごとです?」
戸惑いながらも"慶(けい)”と距離を取ることのない麗の様子から、彼女の言っていることは嘘ではないとわかる。
「ようやく煉(れん)さんからお許しが出たんです。"麗さんのお傍にいるように"と仰せつかっておりますわっ」
「僕の……?」
「……身に覚えがおありでしょう? 仮初めの"楽園"ではその体は長く持ちませんわ」
慶は挑発的な笑みを浮かべ、茫然と立ち尽くすまりあを肩越しに見やる。
「まりあさん……あなたのような子供では麗さんの相手は務まらなくってよ?」
「……やめなさい慶。場所を変えて話そう」
わずかに眉を寄せた麗が慶の肩を抱いてその場を立ち去ろうとする。
「ふふっ嬉しい」
上品に笑った彼女は麗の胸元へ顔を寄せると二人はまりあに背を向けて歩き出すと、目の前にスラリとした男が立ちはだかる。
「麗、それはまりあの物だ。置いていけ」
「……焔さん」
(もう学園長先生とのお話、終わったのかな……)
麗と慶の親密な空気に立ち入ることができず、まりあは心なしか彼の登場にホッと胸を撫で下ろす。
「……お久しぶりです焔さん。随分まりあさんと仲がよろしいようで安心しましたわ。お互い仲良くやりましょうね?」
「お陰さまでな。慶、お前の使命を忘れるなよ」
「もちろんですわ。他ならぬ麗さんのためですもの……行きましょう? 麗さん」
「…………」
近づいてきた焔にショッピングバッグを手渡した麗は、立ち尽くすまりあを見つめ、何か言いたそうに口を開いた。
「まりあ……」
「は、はい……っ」
ようやく麗の視線が自分に向けられたことが嬉しく、声に期待を込めて言葉を待った。
「……焔の傍をなるべく離れないでください。今の僕では到底貴方を守りきれない……」
「え……?」
先ほどとは打って変わった突き放すような態度にガラガラと崩れ落ちる足元。まるで谷底に体を打ち付けたように呼吸さえ苦しく感じ、動けずにいるまりあへ慶が勝ち誇ったようにクスクスと笑っている。
「そういうことだ。俺たちも行くぞ。まりあ」
麗は慶に腕を引かれ、まりあは焔に肩を抱かれ……それぞれは背を向けて歩き出した――