目を疑う光景-1
切なく細められた麗の瞳がゆっくりと閉じられ、まりあの顔を優しく引き寄せる。
「…………」
(あれ、私……?)
一瞬記憶が飛んでしまったまりあを信じられない光景が待ち受けていた。
(……? 麗先生の顔、近い……? まつげ長いなぁ……???)
呑気にそんなことを考えていると麗に触れられている部分が熱を帯び始め、自分の置かれている状況に目を白黒させる。
「……っ!?!?」
「…………」
急に緊張に身を強張らせたまりあに気づいた麗の唇が名残惜しそうに離れ、息がかかる距離で切なく微笑まれる。
「……見苦しい嫉妬を見せてしまってすみませんでした」
「い、いいえっ……」
(よかった、麗先生少し落ち着いたみたい。
だ、だけど……キ、キスって!? どうしてそうなっちゃったの!?)
散らばってしまったショッピングバッグを拾い上げる麗を真っ赤になったまりあはただ見ていることしか出来ない。あまりに顔を近づけてしまうと恥ずかしさのあまり走り出してしまいそうだったからだ。
そんな自分のことでいっぱいいっぱいなまりあの背後から突如女性の靴音が響いて――
「麗さん」
透明感のある綺麗な声がふたりの間を駆け抜ける。
「……?」
呼ばれたのは自分ではないとわかっていながらも、聞いたことのない声に疑問を抱いて振り返ったまりあが見たのは――
(誰? すごく綺麗な子……)
艶やかなブロンドの髪を上品に巻いて流した眉目秀麗な少女が微笑みを浮かべ、優雅に歩いてくるのが見えた。
「……慶(けい)……」
(……けい? 先生の知り合い? でも……)
慶と呼ばれた少女もまりあと同じ制服を纏っており、真新しいそれは同じ一年生であることが伺える。
「お久しぶりですわねっ」
名を呼ばれ、嬉しそうに駆け寄ってきた彼女はまりあの姿など視界に入っていないといった様子で麗の胸に飛び込んだ。