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純白のマリアと漆黒のまりあ
【ファンタジー 官能小説】

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まだ見えぬ真実-1

「いえ……、そう呼ばないと麗先生には伝わらないと思っただけで……深い意味は……っ……」

「深い意味だなんて許さない……」

「……先生……?」

(一体どうしちゃったの?)

 麗が握りしめたままのショッピングバッグが彼の力に激しく歪められていく様を見てしまった。しかし、麗の急激な感情の変化に心当たりがないまりあはその真意をどうしても見出すことができず、ただひたすらに頭を下げる。

「……勝手なことばかりしてごめんなさいっ……麗先生が行くなって言ったのに私が家に戻ったりしたから怒ってるんですよね……」

(麗先生も何か知ってるんだ……だから……)

「……、ないのですか……?」

「……先生?」

 俯き、消え入りそうな声で呟いた麗の声は噴水の音にかき消され、まりあの耳に届かない。

「ごめんなさい、もう一度……」

 まりあのその言葉に顔を上げた麗。

「……っ」

 しかし彼の表情を見たまりあは驚きのあまり言葉を失い、立ち尽くしてしまう。

「……まりあ……っ……」

”――僕はもう……必要ないのですか――?”

 焔と向かい合いながら、離れた場所で行われている麗とまりあのやりとりを聞いていた煉もまた不思議な力を持っていた。やがて悲痛な男の声を耳にし、なんとも言えない表情を浮かべた煉はひとり呟く。

「……まりあ……」

(麗を完全に忘れたか。相変わらず残酷な女だ……)

 まるで諦めにも似た深いため息が唇からから零れ落ちる。

「煉、せっかくだが俺はまりあの傍を離れるつもりはない」

「麗を苦しめるつもりか?」

 遠くを見つめていた煉が何をしていたか、おおよそのことは焔もわかっている。従順で優秀な麗を手放したくない彼は、激務の合間に顔を出しては麗を連れて帰ろうと口説いているのである。しかし、それと同時に自分の右腕である麗が望む未来を――、と誰よりも願っているため無理強いはしないという現状がずっと続いていた。

「……そのつもりはないが、やつらはそこまで馬鹿じゃない。いくら麗が強かろうと先の戦いで受けた傷はそれほど浅いものだったか?」

「…………」

「それに俺以外の適任者はいないだろう?
”楽園”に入り込んだ”悪魔”を見破れる者が他にいるか?」

「確かにな。だが……この世界でのお前たちの力は半減していることを忘れるな」

「……あぁ、わかってる」

「まずは麗の傷を癒すことが最優先だ。万が一、まりあを失う事態になったとしても、お前たちを失うわけにはいかないからな」

「…………」

 頷くことなく険しい顔で沈黙を貫いた焔の意志と無関係に言葉を続ける煉。そしてその唇が新たなる人物の名を紡ぐ。

「慶(けい)を呼ぶ」



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