嫉妬の炎-1
「しばらく家に帰れないからってこんなに必要?」
噴水の傍に腰掛けたまりあは、自宅にある服の量を遥かに超えているであろう袋の数を見てため息をついた。
(鴉の大群の話も聞けず仕舞いだったし……)
今まで傍にいた焔のせいでしばらく落ち着く間もなかったまりあは急に暇になってしまい、ほんの少し物足りなさを覚える。
「あいつ早く戻ってこないかな……」
子供のように何気なく足をブラブラさせていると――
「それらの品々はまりあさんが選ばれたのですか?」
「……? ……麗先生……」
『行かせないっ!!』
『この時をどれほど待ち焦がれたかっ……まりあ……っ!』
(麗先生とはあれから顔を合わせてなかった……)
「い、いえ……」
(こういう時なんて言えばいいんだろう。お元気でしたか? なんておかしいし……)
なんとか気の利いた言葉をかけようとしたまりあは口ごもってしまう。すると、言葉を待たずに口を開いた麗。
「……焔が選んだものならば無理に受け取る必要はありません。これから僕と買い物に出かけましょう」
不気味なほどに美しい笑みを浮かべた麗の瞳は笑っていない。
その証拠に彼の手はまりあの傍でくつろいでいる焔からの贈り物のへと伸びて――
「……先生、それどうするつもりですか?」
「ゴミは分別しなくてはいけませんからね。僕が片付けておきます」
「……っそこまでしなくてもっ! 焔さんは嫌いだけど、私のためにしてくれたことだし……」
まりあは大慌てで袋を掴んだ麗の腕にしがみつく。
「……焔さん……?」
「え……?」
「貴方はいつから彼のことを名前で呼ぶようになったんです?」
動きを止めた麗にほっとしたのも束の間、悲しくも……嫉妬の炎に身を焦がした瞳がまりあを見据えていた――。