帰還命令-1
「ねぇ……聞きたかったんだけど、あの鴉の大群ってなに?」
「お前が部屋散らかしてるからだろ?」
顔色ひとつ変えずそう言ってのけた焔。しかし、この男が何か知っているだろうことはまりあにもわかる。
(知らないわけない。あんなに焦って助けてくれたんだもん……それに……)
焔が目を合わさず憎まれ口を叩く時は、なぜかそれが本心ではないだろうことも何となく伝わってきた。
(……本当はそんなに悪い人じゃないのかも)
「あの光景、実は前にも見たことがあって……」
話を続けようとしたまりあだが、その隣りで足を止めた焔。
「……どうかした?」
訝しげに長身の彼を見上げると――
「お前をこのまま部屋に案内するつもりだったが……”学園長”様がいらっしゃってるみたいだな」
「そんなこともわかるの?」
「まぁな。”くまブラ”お前はここで待ってろ」
「……いい加減その呼び方やめてよ」
小さく呟かれた言葉は焔に届いておらず、彼はまりあのバッグとショッピングバッグのほとんどをその手に持ったまま百合の園へと歩いて行く。
「煉」
金髪の彼をそう呼んだ焔。
そして彼の向かい側に座る麗の視線は焔の持つまりあのバッグへと注がれている。
「焔か……すこし話をしよう。そこに座りなさい」
「…………」
なぜか焔が椅子に座ると同時に立ち上がった麗。
「その荷物、僕がお届けします」
「不要だ。まりあをそこで待たせているからな。長居をするつもりはない」
「焔、まりあのことだが……彼女のことは麗に任せて、お前は戻ってこないか?」