物資調達-1
『何せ時間がなかったからな。適当な着替えしか入ってないぞ』
バッグを目の前でぶら下げてみせた焔だが、中に何が入っているのか確認していないまりあは彼に従うほかなかった。
『俺の好み選んでくるから文句はいうなよ?』
店の前でまりあを待たせ、焔だけが入店したかと思えばあっというまに買い物を済ませ出てくる。
幾度どなく繰り返されたその行動。そしてもはや焔だけでは持ちきれず、まりあもこれ以上持てないほどに両手がふさがっているが、それでもまだ彼は何かを探しているらしい。
「……普段制服なんだし、こんなにいらないんじゃ……」
「文句はいうなと言っただろ。次行くぞ」
「…………」
(文句は言わないけど……買いすぎじゃない?)
「このあたりのはずだ」
「さっきから何探してるの?」
「お前もいい加減"くまブラ"から卒業したいだろ?」
「……卒業もなにも入学してないから! あんただけでしょ! そんなふうに呼んでるの!」
「腹が減ると苛立つのは人間の特徴だな。そこのクレープ買ってやるから大人しく待ってろ」
(そういえばたしかに……もうお昼近いのかな)
「なに言ってんの? あんたも十分人間でしょうが」
「そう見えるか?」
――ドキッ
焔は自信に満ち溢れた顔でニヤリと笑うとショッピングバッグをまりあの座るベンチへと置き、クレープショップへと消えていく。
時折見せる焔の色気に満ちたした表情に、まりあは少なからず胸の高鳴りを覚える。
「……あっ、あの悪い口さえどうにかすれば……いい男なのに」
(でも絶対あいつの前じゃ言ってやらないんだからっ! 言ったら絶対つけあがる!!)
ブンブンと首を振り、気持ちを落ち着かせようと空を仰ぎみると、にわかにあたりが騒がしいことに気づく。
「……?」
『きゃーっ! 何あのかっこいい人!!』
『ちょっと声かけてみたら!?』
『でもクレープ2つ持ってるし……彼女いるんじゃない?』
(……かっこいい人? クレープ?)
「ほら、待たせたな"くまブラ"。好き嫌いは認めないぞ」
そういうと焔はショッピングバッグをどかし、長い足を組みながらまりあの隣りに腰掛けた。