新たなる人物-1
「――麗」
白百合麗は凛とした威厳のある声に背後から呼び止められ、美しい髪をなびかせた彼は驚きに満ちた瞳で振り返った。
「……なぜ貴方が……こちらには当分いらっしゃらないものかと……」
「あぁ、少々問題が発生しているせいでお前たちと合流するのは更に先になるだろう」
「……申し訳ありません。貴方にばかり……」
「お前のサポートがないのは正直つらいが、それはここも同じだろう?」
「…………」
表情を曇らせ、俯いてしまった麗を男は気遣うように笑みを向けた。
「久しぶりにお前の淹れた茶が飲みたい。頼まれてくれるか?」
「……えぇ、もちろんです」
肩を並べて百合の園へと移動したふたり。長身の麗よりさらに背の高い彼は、久しぶりに見る麗へやがて違和感を覚える。
「…………」
それは慣れた手つきで紅茶を注ぐ麗が時折学園を振り返りながら心ここに非ずといった態度を繰り返しているからだ。
「まりあが気になるのか?」
「……はい。烏たちが不穏な動きを見せています。恐らくまりあの存在もやつらに……」
小さなため息をついた彼が美しい金の髪を風に流すと、その奥のアイスブルーの瞳がにわかに鋭さを増す。
「そうか。ならば焔とまりあは行動を共にさせる必要があるな」
「…………」
またも押し黙ってしまった麗に男の眉がピクリと動く。
「……不服か?」
いつも自分に対して従順な麗が反発するとは思えない。
しかし、違和感のある彼の態度に男は紅茶を傾ける手を休め、己のカップを見つめたまま微動だにしない麗へと問う。
すると、視線を上げた麗からは思いもよらぬ言葉が返ってきた。
「まりあの傍にいるのは私だけではいけませんか? 煉(れん)」