愛の逃避行?-1
養父母が殺された日と同じ、奇妙なほどの鴉の大群をもう一度目にすることになろうとは夢にも思っても見なかった。昔の出来事を別にどうとも思っていなかったはずの彼女だが、あのような偶然がそうそうあるものなのだろうかという疑問が影のように付きまとう。
そしてあれほど嫌っていた焔の後ろを大人しくついてくるまりあを見れば、少しは言うことを聞く気になったであろうことはその態度を見れば一目瞭然だった。
いつまでも重量級のバッグをまりあに持たせたままの焔は紳士とは程遠い位置にいる。
思えば最初から彼はかなりの”俺様”で、気遣いのようなものはどこかに落としてきたのではないかというくらいまりあを下にみている。
(あれ……そっち学園の方向じゃないよね?)
学園に向かうためには公園を出て左に曲がらなくてはならないのだが……
「このままふたりで愛の逃避行……なんて考えてたか?」
まりあの疑問などすでに気づいていた焔がニヤリと振り返った。
「はぁっ!? そんなわけないでしょ!? 誰があんたなんかとっ!!! それに急いでここまで連れてきた割りに随分余裕じゃない!」
「ぎゃーぎゃー騒ぐな”くまブラ”。お前の足りないもの買ってやるんだから俺様に感謝しろ」
「へ? ……足りない、もの?」
ポカンと口を開けたまりあの額を指先で軽く弾くと、その手はまるで重さを感じさせない手つきでまりあの手からバッグと鞄を奪った。