〜吟遊詩(第四部†砂漠の国ディザルト†)〜-7
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《ホテル サボテン》
ユノが入ったホテルは少し寂れていた。連日の強風でソファーも床も砂っぽくザラザラしている。
「じゃぁ明日8時にロビーで」
薄い白い布を体と頭に巻いた、濃い髭の男がユノに言った。その姿はまさにアラビアンである。
「本当に宮殿に行って通行書を貰ってくださるんですか??」
ユノが顔をほころばせて髭男に言う。
「あぁ。手続きする事務員まで案内してあげるよ。僕の紹介状も添えれば更にスムーズに手続きが済むだろう」
髭男はイカツイ体格には似合わずニッコリと笑って見せた。
「ありがとうございます」
「おやすみ」と一言残すと、髭男はユノに背を向け、自室へ戻って行った。
ここまでの経緯を簡単に説明すると……
ユノがホテル.サボテンに入ったとき、一人の髭男が話しかけてきた。
聞けば、宮殿の関係者だと言う。そこでユノは通行書を手に入れたい旨を伝え、宮殿まで案内してもらう事になったのだ。
「エアル、明日の朝に間に合うわけないよなー。この雨だし……」
その髭男は明日には宮殿に向けて出発しなければならないらしい。
ユノはエアルへ簡単な手紙を書き、砂っぽいベッドへと潜り込んだ。
━━━翌朝━…
ユノと髭男はジェット飛行船に乗っていた。
窓の外では飛行船から噴射された廃棄ガスが勢い良く雲と混じりあって行っている。空は乱気流が激しいはずなのに飛行船は少しも揺れることなく、快適な空の旅を演出してくれていた。
説明が遅くなったが、ジェット飛行船とはその名の通り、ふわふわ飛ぶ飛行船にジェット噴射がついていて、元の何倍ものスピードがでるものである。
このジェット飛行船を使うと、ユノが出発した『月降る地』から宮殿まで……
「宮殿まで2日かかるって……」
ユノが呟いた。
「えぇ。歩けば2日かかりますが、これだと1時間半で着きますよ」
髭男がニッコリと答えた。
そう、ジェット飛行船ではたった1時間半で着いてしまうのだ。
「どうしてこんなことまでしてくれるの?」
「客人は丁重にもてなすのが我が大陸の仕来たりになっておりますから。長い距離をラクダに乗って、とは言え、2日も歩かせるわけにはいきません。このジェット飛行船は昨晩のうちに手配しておきました。国王様も早くお会いしたいと申していましたよ」
髭男のあまりの用意周到ぶりに、ユノも不信感を……
(ラッキー!2日も砂漠を歩かないですんだんだもん。神様に感謝だわ)
……不信感を覚えるはずもなく、ノーテンキなユノは髭男に隠れて小さくガッツポーズをした。