生きのびるため-3
まあその後処方されたヒルナミンとかベゲタミンAの薬の効果強すぎて、もう二度と飲むかって! のが困っちゃったって。
パパが服役している八王子医療刑務所は平日にしか面会することができないから、あたしみたいな登校拒否児にはうってつけだ、順子みたいなダメ人間には親和性高いのかもね、えへへ
総武線をお茶の水で中央線快速に乗り換えるとき、じろじろ見られるのが嬉しくてくすぐったいような恥ずかしさだ。わかってるわ、そんなにじろじろ見ないでって、そんなに痛々しい腕のホータイが気になるのかしらって、くすくす……
弁護士の先生いわく、矯正性交罪は初犯でも5年は出てこれないだろうとのこと、壁の中でパパは今何を思ってるのかな? 差し入れ業者で日用品とお菓子を購入し、刑務官に面会の手続きをしている間、他の面会者の人たちが結構多いことに意外だなって、だからあたしたち家族がこういう形でいるのもありなんじゃないかって、最近の諦めってそれが案外普通なのかなってぼんやりおもったの。
憎くないってことはないけど、めんどくさい家族だから。
パパに逢ったら、すっかり変わっていて、なんだかちょっと老けたみたいで、あたしと目を合わせようとしない、そんなものかな。
最近どうだとか、元気にしているのかとか、月並みな事を訪ねてくるパパだ、「まあ」とか「うん」とか、無視したり、どこの家族でもある感じの面会風景で、つまんなかったから、ママもなんかおとなしい感じだし。
「ねえパパさ、順子のこと好き?」
ママだったら、きっとこういう事聞くと思うし、
「え、って、……ああ」
「どのくらい好き?」
刑務官からもパパからも見えない角度からママのスカートの中に右手を忍ばせる、あ、ママったら表情を変えないんだ、含み笑いでママを下から見る、(ねえこんなシチュエーションってママの好物なんじゃないのかな?)左手で髪をかき上げ意地悪く、目で訴えかけたの、透明アクリルの仕切りとテーブルにしなだれ、甘い声でもう一度……
「どのくらい好きなの?」
戸惑ってる戸惑ってるよパパ、そーだよね、難しい質問だもの、よーく考えて。
「お、親としてだよ」
模範的答えだねー、でもそういう事聞きたいわけじゃないんだからさ、空気読んでよ。
「順子のこと思ってオナニーとかした?」
パンツの上からママのあそこをグリグリ弄ると、湿り気を感じる、げー、やっぱなれねーっていう、涼しい顔しちゃって、気持ちいいんでしょママ? わかるわよフフフ……
「そ、そんなことは……」
あ、やっぱコイツ反省してねーなって、まあ家族だし、順子も大概だけどねえ、
「何回くらいしたの? 毎日してる?」
「そ、そんな話をするんじゃない!」
親として叱ってくれたような言い方にカチンとくる、パパが始めたことでしょって。
ガタンッ!
パイプ椅子を後ろに飛ばすように立ち上がり、涙が流れるの、悔しくて仕方なかった、今更になって親としての顔を持つパパがどうしようもなく憎くなる、刑務所に入れられてもうどうしようもないって時、そんなときに親としての顔なんか見たくなかった。
「ママ、行こう」
ママの腕を引っつかんで、一目散に面会室を飛び出した。
帰りの電車での、何とも言えないママの心配顔って、やっぱりそれは母親としての顔なんだと思う、複雑で、粘ついて、真っ黒で、頭ン中グチャグチャで、あたしの思い描く家族とはあまりにも違っていて、このときに知る。
順子の思う家族って、手に入らないもの、幻想を追っかけているんだって。
帰り道はさっきまでの多好感が消えてしまい、どん底のジメジメした気分になる、腕のホータイを見て、一体ナニやっているのかと後悔と自己嫌悪に気分が悪くなるの、きりきり締め付けるみたいな頭痛もしてきて、途中駅でもどしてしまいました。
電車の中で聞こえる声がうるさい、「あの子って子供の頃の映像で男のアレを口淫してなかった?」「よくあんな美少女が……ヤリマンなのかな」「あんな可愛い顔して、きもいよな」……
申し訳ないなって、こんな薄汚い売女が電車乗っていて、視姦されて、目を汚すことしかできなくて、ホント申し訳ないなって。
最悪の気分で、ふらつきながらどうにかこうにか家にたどり着き、お薬を飲んで寝る事しかできなかったの。