片山未来(25)その2-13
一週間ぶりくらいで顔を合わせる未来は、がらりと雰囲気が変わっていた。
「黒くしたんだ?」
明るい茶色だったボブカットの髪を黒染めしたようだ。ますます小学生の頃の面影が濃くなり、思わず見入ってしまった。
「亮介が言ったんでしょ。髪、黒いほうがいいって」
いつかのタイミングでそんなことを呟いたが、まさか実行するとは。
「お前……俺がしろって言ったら何でもする訳? ノーパンに超ミニで出歩けって言ったらその通りにするか?」
「うわ、変態っ……そんなことして欲しいの? ヤダぁ……サイテー」
口では非難しつつも、マジに命令したらやりかねない様子が窺えた。
「でも……いいよ。その髪。そのほうが断然いい」
本心から褒めると、未来は嬉しそうな顔で俺を見つめた。
小洒落たイタリアンレストラン。オリーブオイルの薫りが漂う店内でランチを注文した俺たちだ。
未来が人妻であることも忘れそうな、新鮮な恋人気分のデートである。
肉欲メインの逢瀬しかなかった未来との関係性だが、俺も違った感情で未来を意識せずにはいられなくなっていた。
大事な人──そんな風に思えてしまう。俺らしくない情動かもしれないが、抑えられるものではなかった。
それだけに、未来が旦那持ちの身であるという点が、もどかしく感じられた。
人妻を寝取るのが悦びという俺としては異例の感情だったが、どうやら俺は未来を独占したい気になっていたのだ。
運ばれてきたパスタをふうふうして食べる猫舌の未来。
口元にクリームソースがついているのを指摘すると顔を真っ赤にして照れる未来。
俺にキラキラした瞳で語りかけてくる未来。
小鼻の動きひとつ取っても、どうしようもなく愛しく映ってならない。
そんな未来が、食後の紅茶を飲み終えると、
「あのね、亮介……真剣な話なんだけど」
前置きして、爆弾発言をぶちかましやがった。
「生理が来なくなったの」
「はあっ!?」
驚いても仕方ないことではあるが、俺はすすっていたアイスコーヒーを鼻から逆流させそうになった。
「それ、出来ちゃったってこと……?」
声をひそめ、確認した。
こくん、と未来は頷いた。
「亮介との赤ちゃんだよ」
幸せそうな顔で微笑まれると、俺は全身の力が抜けてしまった。
「分かんねえだろ。ほら、木俣とも生でヤッたろ。それに旦那さんとの間に……」
「ううん、違うよ。木俣くんとはあのホテルでしか生でしてない。旦那ともゴム着けてしてるから……逆算しても間違いなく亮介とのエッチが当たってるの」
未来は浮き立った声でそう言うと、俺の手を握った。
「いや、お前……上手くやれって言っといただろ。俺に中出しされた後は旦那とも生でヤッて誤魔化せって」
「そんなのヤダよ。出来るんなら、一番好きな人とのエッチで出来ちゃうのがいいもん」
ずい、と顔を寄せた未来。
官能的な唇が、とんでもない言葉を吐いた。
「このこと、正直に旦那に言っちゃうつもりだよ」
未来を巡る波乱の展開は、まだまだ俺を翻弄してやまないようだった。
初恋の守護は淫獄 〜了〜