投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

よだかの星に微笑みを(第二部)
【SF 官能小説】

よだかの星に微笑みを(第二部)の最初へ よだかの星に微笑みを(第二部) 19 よだかの星に微笑みを(第二部) 21 よだかの星に微笑みを(第二部)の最後へ

豊かな日常-3

「いらっしゃい! 三人様、お座敷!」
「お、いたいた、今日も。」
「なんだ、お前、女二人も連れて。」
伊月だった。いつもの居酒屋にみんな集まっていた。ひいなさんも常連になりつつあった。
「あーっ!」
渡部が大声を上げた。周囲の客が、一斉に注目したのも束の間、元の賑やかさに場はすぐ返った。
「あ、そうか。」
蘭のことを説明できる頭が今はない。
渡部が何か言う前に、蘭が座敷の渡部の隣に腰掛け、いきなりキスをした。長いディープキスである。
「お前ら、泥酔してんな。まあ、俺たちも大分飲んでるけど。」
「アンカさん、こんばんは。」
ひいなさんが挨拶した。そして
「この二人、知り合いみたいだけど。大丈夫かな。やめないよ、キス。」
「ほっとこうぜ。渡部の訳ありだよ。お前ら、ワインとビールか。すみませーん!」
今日は伊月が場を仕切っている。
ようやく渡部の口から口を離した蘭の舌は、血で真っ赤になっていた。渡部に噛ませたようだった。
「あかん、醜態さらしたわ。俺、やっぱりこの女が好きなんや。憎らしゅう思うても、どうしようもなく好きなんや。」
渡部は涙を流した。
「エイズなんぞ移しよってからに。それも俺が悪いんやな。あんたの方が辛いはずや。」
蘭が返して
「センセー、あたしは病気治ったよ。今のキスは薬入り。センセーも治るよ。」
「嘘でも嬉しいわ。」
「あのね、あたし、今のお店辞めるかも。まだ分からないけど。」
「渡部、お前、客じゃなくて友達になってやったら?」
俺が言うと渡部は
「なんやよう分からんけど、お付き合いか。柄にもない。」
「酎ハイおごってくれたらセックスしてもいいよ。」
蘭が言った。渡部は
「断る理由がないわ。よろしく。いくらでも飲めや。もう、一連托生で行くで。」
蘭はにこりと微笑んだ。伊月が俺に
「お前、最近女付いてるよな。中学生はどうしたんだよ。」
ひいなさんも
「女の子泣かせたら、あたし弘前君のこと、市蔵(いちぞう)って呼ぶ。みんなもそう呼ぼうよ。」
「うわ、現実に引き戻された気分。あれ、なんで市蔵なんだろう。」
市蔵とは、よだかの星のヨダカが、タカに迫られた改名である。しかし渡部がすかさず
「話題、逸らすなや。」
「取り敢えず乾杯!」
アンカがグラスを挙げて言った。
もう、三年生も終わりだ。いろいろあったが、何もしない一年だった。それでも、この時間だけは豊かさに満ちて、俺の人生を彩ってくれた。


よだかの星に微笑みを(第二部)の最初へ よだかの星に微笑みを(第二部) 19 よだかの星に微笑みを(第二部) 21 よだかの星に微笑みを(第二部)の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前