片山未来(25)-3
こんな話を放っておく手はない。
俺は早速オフの日を利用して、噂の奥さん宅へ突撃することにした。
木俣によれば、奥さんの名は「片山未来」という。
オートロックのマンションだが、小道具として木俣からシェアして貰った脅迫材料の写メさえあれば、どうとでも面会の端緒は掴める。
木俣からは旦那の出勤時間などもリークされているので、駐車場から白のレクサスRXが出て行ったのまで見届けた上で行動開始だ。
小ざっぱりとしたスーツ姿に身を固めた俺は、教えられていた部屋番号を押して応答を待った。
『どちら様ですか?』
気だるげな声がインターフォンを通して聞こえた。それだけで半勃ちになってしまう。
「片山さんのお宅でお間違いありませんね? 興信所の者ですが、内密でお耳に入れたいことがありまして……」
『あの、どんなご用件ですか?』
明らかに怪しんでいる様子の奥さんに、俺はずばり言ってやった。
「ご主人に知れるとまずいこと──とだけ申し上げたら、お分かりになるかと思うんですが」
『ちょっと、言ってる意味が分かんないんですけど』
動揺を帯びた反応に、さらなる脅し文句。
「では、ご主人がいらっしゃるときに再度お邪魔させて頂きます」
『あ、待って……』
押しというよりは引きの呼吸で、こちらのペースに持ち込んでやった。
自動ドアが開き、俺は堂々ロビーを通ってエレベーターに乗り込んだ。
308号室は角部屋にあたり、確かに踊り場からの激写を受ければひとたまりもないポジションだった。
ベルを鳴らし、ドアが開くのを待つ俺は、既にギンギンの昂ぶりを迎えていた。
事前に用意しておいたデタラメの名刺を手に、淫ら妻との熱い時間を夢想する。
脅してヤるなど人として最低の所業だが、草食系全盛の現代にあって時代錯誤なまでの欲望まみれな俺だ。手段なんか選んでいられない。
恐る恐る開かれたドアの隙間に素早く革靴を差し入れ、閉められないよう予防線を張った。
「か──」
片山未来さんですね、と言おうとした俺の口は、現れた女の顔を見て硬直した。
俺の認識では、そいつの名は片山ではない。
「楳村未来……」
そう刻みつけられている、忘れようとて忘れられない面影だった。
「えっ!?」
女は眼を見開いて俺を凝視した。