俺はどうする?-1
翌朝、マリエが通信してきた感覚に目が覚めた。
「酔っ払いのウラジーミルって、お前だろ。どういうつもりだ。」
「何言ってんだ?」
自分の言ったことに俺は記憶がなかった。言ったとしたら、気取って名乗るにしても恥ずかしい名前である。
「組織に手を出してきたな。」
「組織じゃなくて、猫の虐めに手を出したんだよ!」
「岡田が騒いでる。知らない機能を持った変な奴が居るって。ぶっ飛ばされたって言ってたけど?」
「そんな事するか。俺が気になったのは猫だけ! ほっといてくれ。」
「ニュース見たか? 局地的な地震で公園の地面が裂けたってさ。そこにいた男性四人は脳卒中。無理がある説明だよな。目立つ事されると困るんだよ。」
その時、新しい通信が入ってきた。高橋先輩だった。
「弘前、元気か。久しぶりだな。俺たちはあの男たちを消そうとしていたんだが、まあ、似たような結果になった。岡田は自信過剰で騒ぎすぎるところがある。俺から注意しておくよ。お前は好きにやってくれ。お前がいなかったら猫は助からなかった。」
「でも高橋さん!」
マリエが反論しようとすると先輩は遮るように俺の方へ
「弘前、俺は中学生のパンツを覗く趣味はない。」
マリエは
「ん? こいつ、また見てるのか! しかも高橋さんに生理中の! あたし、この男、大嫌い!」
マリエが泣き出したところで二人からの通信は切れた。
俺は安心していいのだろうか。
ただ、これからも俺は酔っ払うだろうし、酔って同じ場面に出くわしたら、同じ事をするだろう。
「よだかの星」のヨダカは、生きる苦しみが解決しない事に悩み悲しんだ。ヨダカは全ての生き物が平和に暮らせないことを嘆いて死んだ。
高橋先輩達の組織は、それを行動と武力で解決しようとしているのかもしれない。改造人間という新たな種を創り、何かを行いつつある。人工的な、自然界の大革命だ。
岡田は、神はいないと言った。消せば居なくなるとも言った。それで世界は変わっていくだろうか。昨日のような奴らはどこにでも、いつの世にも居ただろう。
俺は、猫や犬が殺されるのは嫌だ。しかし、今晩も焼き鳥を飲み屋で食うだろう。もつ煮込みも欠かさない。昨日の奴らは社会人だった。そいつらの仕事のお蔭を何かしら蒙りながら、俺は大学でのらくらと過ごす。未成年の可愛いポリアンナとは相思相愛だ。そういう俺が、最強の新型改造人間なのだそうだ。
やり切れない気分になった。神も仏もないものか。組織の思想も何となく分かった気がする。フランス革命も共産主義革命も、善意に始まり、血生臭い歴史を残した。
矛盾だらけに見える姿こそが自然で、それを変え、調和をもたらしたがるのが人間の本性なのか。しかし、その調和はしばしばご都合主義である。ヨダカは調和を諦めたのだ。
俺は、どうする?
「卒論、よだかの星にしようかな。題目、そろそろ決めないと。」
遠く、アパートの窓から、教会の十字架が見えている。淋しくなった俺は、その輝く十字架に向かって合掌した。そして堪らず大声でこう唱えた。
「南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経!」
後日、あの男たちが回復したと先輩から短い通信があった。