解体業-2
だから日本じゃそういう例がほとんどないんだ。
もしやろうとしても地元住民が危険だって反対運動が起きたり裁判起こされたりさ。
そんな馬鹿馬鹿しい事するくらいなら結局重機を使った方が安全で早くて確実なんだよ。
俺も中学出て解体屋になる時にダイナマイトを使う現場もあるのかなって思ってたけど、もちろん一回もやったことがないし。
ともかく日本じゃ数年に1回あるかないかなんだよ。
といってもここ10数年間はないんじゃないかな。
メリットが無いからね。
話が逸れたな。
解体屋ってけっこう仕事が無くならないんだ。
悪徳業者もいるけど、ウチみたいに真っ当にやってても食べてけるしさ。
不思議と作るより仕事量が安定してるんだよね。
作るより壊す方が多いなんて、不思議だろ?
町自体が衰退してるって事もあるし、変わり目なんだな、時代の。
昭和が終わって平成を挟んで…次に変わってく訳だろ。
そしたら昭和の建物なんて壊すしかないのさ。
昨日も古い木造の民家を壊したよ。
商店街に面したとこでそれなりに立派な外観だったよ。
俺がガキの頃はたしか婆さんが一人暮らししてたんじゃなかったかな。
でもまさかその婆さんの家を自分が壊す事になるとは思ってもみなかったよ。
歴史ある町だってレトロな雰囲気で観光客を呼ぼうとしてるのに、ああいう味のある建物まで役人はぶっ壊してしまうんだからな。
まあ、仕事だからしょうがないけどさ。
誰かの仕事や暮らしがあった建物を解体したってさ。
結局新しい土地になにも建たない、なんてこの町じゃよくある事なんだ。
ほら、廃屋とか廃墟が放置されるとたまに馬鹿が入り込んで悪さしたりするだろ?
下手すりゃ火事になったり、崩落事故でも遭えば何で解体しなかったって管理責任を問われてさ。
それを防ぐためにとりあえず壊すんだ。
で、駐車場にもなりゃしない文字通りの空白地がこの町にポコポコ出来たって訳だ。
たまにさ。
殺人事件とか自殺者が出て誰も住まなくなった家を解体するって時もあるんだ。
大抵元の住民は一人暮らしの年寄りなんだけど。
昔は家族で暮らしてたのかもしれないけど一人暮らしの年寄りって割と大きな家が多いんだよ。
ついこないだもさ。
親子三人で暮らしてたんだけど、息子が両親を殺したって事件があったんだよね。
悲惨な事件だなって思ってテレビでて見たんだけど、この町でさ。
で、それからちょっとしたらその家を解体してくれって依頼が入ってきたの。
えって思ったら別で暮らしている息子の兄弟がいて、その人が家の中のもの片づけたらしくてさ。
そりゃそうだ、住み続けられないしな。
でもいつか刑務所から出てくる息子はどこに住むのかなって思ったけど聞けなかったね。
世間話で依頼人が自分から話す時以外は解体する事情はいつも聞かないんだけど、そん時は余計にとても聞けなかった。
ご両親が50歳前後で逮捕された息子が20代の前半かな。
で、依頼してきた息子の兄弟が30近い若い男でさ。
何だろう…何とも言えなかったね。
言葉遣いは丁寧だったけど、得体のしれない影があって目を見る事も出来なかった。
凄惨な事件の関係者だから俺がビビってただけかもしれないんだけどさ。
それから……何か月か過ぎた頃かな。
その事件自体忘れかけてたんだけど、また新聞でふっと見たんだよね。
息子の裁判が終わったってさ。
ああいう事件って身内だと何人か殺しても大抵死刑にはならないじゃない。
その息子もやっぱり無期懲役止まりでさ。
でも一つ気になった事があったのよ。
その記事には殺された両親の母親っていうのがそん時妊娠してたって書かれてたんだよね。
よく読んだら母親は48歳なんだけど、殺された時に既に妊娠6か月だったって。
てことは息子からしたら年の離れた兄弟も殺しちゃった事になるじゃない。
詳しい事情は書かれてなかったからよく分からないんだけどさ。
息子が両親を殺した動機とか俺に解体を依頼してきた兄弟の事とかもね。
でも実は旦那の子じゃなかったとかで家庭内で揉めてたのかなって。
まあ、それは俺の想像だけどね。
俺らに出来ることは解体だけだよ。
何も無かったかのように綺麗にね。
完