特進クラスの期末考査 『淫らな実験をレポートせよ』act.1-2
「日立、あんたは行かなくて良いの?」
隣りから吉田桜に腕をつつかれ、机に突っ伏した日立は顔を上げた。いつも3人一緒だから、三角関係か?と噂されているのだ。
「ん〜。俺は草野のバイトに興味ないし」
ふわぁ〜、と欠伸をしながら日立は呑気に答える。野球部の部長を務めている彼は、テスト前で部活が休みだと暇で仕方ないらしい。
「そうじゃなくて。二人っきりで課題済ませちゃうかもよ?」
ふふふ、と吉田桜が妖しい笑みを浮かべている。
「ん〜。そぉだねぇ…。抜け駆けはいただけないねぇ」
そんな日立の答えに、やっぱり!と嬉しがる桜。恋のトラブルは、いくら見た目が男っぽい桜でも楽しい話に違いない。
「じゃあ、すぐに追いかけないと!」
「うんにゃ。奴等は馬鹿だから俺を迎えに来るんデス。なんてったって…」
そう、日立が言いかけた途端。物凄い勢いで会議室のドアが開き、
「てっめぇ!俺の定期さっさと返しやがれッ!!!!」
案の定、肩で息を弾ませた草野がいた。
そう。日立は草野が先にバイトに行く為に、会議を抜け出す事を確信していたのだ。
(さっき、時刻表を見せてもらうついでに、定期もパクっておいたんだよね)
「んじゃ、俺も先に帰るわ。アディオス!」
そう言い残し、騒がしさと共に、日立も廊下に消えて行った。
会議室に残された面々は、思い思いに溜め息を吐くばかりだった。
普通電車の3両目。ドア脇の2人掛けの座席に、3人の姿があった。
座席には飛鳥がちょこんと座り、隣りには2人の鞄が乗っかっている。その2人…草野と日立はと言うと、飛鳥の掛けている座席の目の前で吊り革に掴まり、いわゆる痴漢からのガード中らしい。
さほど満員では無いにもかかわらず、いつもの癖と言うのだろうか。男達の心境は解らないが、結構、過保護に扱われているに違いない。
さて、会議室からエスケープした3人は、これからバイトを休んだ草野の家に集まるらしい。世間話をしながら、草野の降りる駅まで暇を潰す。
流れ行く車窓。街の喧騒は遠ざかり、閑静な住宅街が眼下に広がる。ベッドタウンと呼ばれるこの街。派手さは無いが快適に暮らしていけるのが自慢だ。
電車に揺られる事、三十分。
駅からは自転車で更に十五分。
日立は飛鳥を後ろに乗せ、草野の家へと自転車をこいだ。悠々と一人で漕ぐ草野に、多少腹を立たせるが、背中に当たる柔らかな感触に口許がにやけてしまう。
「お邪魔しまぁす」
「〜っす」
草野の家は割と大きな2階建て。庭には花がたくさん咲いている。柔らかな感じの家だ。
「誰も居ないから気兼ねしないで上がれよ」
等と言われなくても、二人は我が家の様にズカズカ入る。暇があれば来ているのだから始末が悪い。
二人は迷う事無く、一階の東端に位置する草野の部屋に向かった。
六畳程の広さで、机と椅子の他には、下がソファになっている二段ベッド。
備え付けのクローゼットのお陰か、はたまた草野の性格か…。こざっぱりとした部屋だ。