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亜紀
【その他 官能小説】

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亜紀-6

 「それは出来ない相談だ。おばさんは金を出せば更に幸せになると思うか、あるいは出さないと不幸になると信じて金を出すんだよ。そんな人を止めるのは不幸になりなさい、幸せになるのをおよしなさいと言うようなもんじゃないか」
 「それはそうだけど狡い。やっぱりあそこで働いているからそんなこと言うんだわ」
 「そうじゃ無い。なんと言えば分かって貰えるのかな。僕は経理にいるから信者さんが300万円寄付したり500万円寄付したりというのをしょっちょう見ている。見ているんではなくて僕が受け取っているんだよ、勿論僕の懐に入る訳じゃないけど。それで思うんだが、300万円とか500万円とかいうのは例え資産家であってもそれは大変な金額だ。部屋の片隅を探せば落ちているというような金額では無い。でもだからこそ言えることは、その人達は露ほども疑いなんて持っていないっていうことだ。本当にこれを出せば幸せになるのかなあ、なんて髪の毛一筋でも疑いを持っていれば、誰もそんな大金を出したりはしないんだよ。そんな人達相手に一体何が出来る?」
 「それじゃこのままもっとお金を取られるのを黙って見ていろと言うの?」
 「だってそのお金はおばさんのお金なんだろう? おばさんがおばさんの金をドブに捨てようが、気の毒な人に寄付しようが誰にも非難は出来ない。ましておばさんは本学寺に寄付することが自分の為になると思ってそうするんだから、ドブに捨てたり気の毒な人に寄付したりするのとは訳が違う」
 「誰かに非難されたらそう答えるように教育されているの?」
 「馬鹿な。誰かから非難されたらその非難した人をとにかく教団に連れて来いと教育されているんだよ。そういう人を洗脳するのは簡単なんだ」
 「えー、本当?」
 「本当さ、無関心の人を洗脳するのは難しいが、非難するというのは関心があるということの1つの変形に過ぎないんだから」
 「恐ろしいのねぇ」
 「そうさ、人間の心理というのは恐ろしいもんなんだよ。心理学者は何百年も真面目に研究を重ねて未だに何も分かっていないというのに、大した学問も無しにそういう人間心理を利用して金儲けする人間は昔から大勢いるんだ。ヒットラーだって今思うと漫画のような顔に見えるが、あれで当時は大変なカリスマだったし、群集心理に掛けては相当な知識の持ち主だったらしい。そうでなければ大勢の人間を操ってユダヤ人虐殺みたいな暴挙をやることは出来ない」
 「ふーん。おじさんは学問があるのね」
 「学問なんか無いよ」
 「でもいろいろ知っているじゃないの」
 「僕が今言ったことで君が今まで知らなかったことって何かあるかい? 僕は当たり前の常識的なことしか喋っていないんだよ」
 「そう言われてみればそうだけど、なんか凄い」
 「別に凄いことは何も無い。おばさんのことは気の毒だと思うけどそれは僕の見方であっておばさんは本学寺に救われたと思っているに相違ないよ」
 「困ったわね」
 「ああ、しかしどうしようも無い」
 「私本学寺の修行に参加してみようかしら? なんか興味が湧いてきた」
 「よしなさい。君なんかイチコロで騙される」
 「そんなことは無いわよ。こう見えても意思は強い方だから」
 「失恋して自殺しようという女の子が意思が強いとは恐れ入ったね」
 「それは又別よ。それに仮に騙されたって私はお金なんか持っていないから騙されようが無いじゃないの」
 「子供の考えそうなことだな。君はいくつなんだ?」
 「子供じゃありません。もう20才です」
 「それは1番危ない。20才ならサラ金で金を借りることが出来る」
 「私サラ金なんて利用したことありません」
 「利用したことがあるか無いかなんて言っていない。サラ金で金を借りてそれを本学寺に寄付している若い人達が、どれだけいると思っているんだ。彼女達はそれを返す為に水商売のアルバイトまでして、しかもそれを御奉仕などと呼んで喜んでやっていたりする」
 「えー、本当? 信じられない」
 「それにね、20才になっていなくとも水商売は雇ってくれるだろう? 年なんかいくらでもごまかせる。そしてその給料を貢いでいる信者も沢山いるんだよ。教団が女性を主にターゲットにしているのはそういう訳なんだ」
 「恐ろしい」
 「そうさ。君のような子供が何かしようというには相手は怪物過ぎるんだ」
 「子供、子供って言わないで、私もう成人しているんだから」


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