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亜紀
【その他 官能小説】

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亜紀-7

 「20才になれば大人だというのは法律上のことで、精神的なこととは関係無い。肉体的には20才前に既に大人になっているだろうし、子供だ大人だということに拘ることは無い」
 「子供だ子供だと馬鹿にしてるのはおじさんの方じゃない。私が泣いているだけで自転車盗られたって思い込んでしまった癖に、おじさんだって大して大人とは言えないわよ」
 「まああれはうっかりしていたな。何しろ僕は自転車を2回も盗まれていたものだから」
 「ちゃんと鍵は掛けていたの?」
 「勿論だよ。だけどあんな自転車の鍵なんかドライバー1本で簡単に開けられるんだ。この僕が実際試してみたんだから」
 「え? 盗まれて癪に障ったから盗んでやったの?」
 「まさか、君はとんでも無いことを考えるんだな。この間スーパーに買い物に行って出てきたら鍵がなくなっているんだよ、ポケットに入れた筈なのに。それで思いついてもう1回店に入って100円ショップで小さいドライバーを買ってね、それで試してみたら簡単に開いちゃうんだよ。あれには助かったけども、鍵なんて意味は無いんだなとつくづく思った」
 「そうか。でもおじさんてどっか抜けてるのね」
 「何で?」
 「だって勘違いしたり、鍵なくしたり」
 「そうか、そうだな。人間はどっか抜けている方が愛嬌があっていいもんだ」
 「あんなこと言って」
 「まあとにかく悪いことは言わないから、教団の修行に体験参加してみようなんてことは止めなさい。君の人生がメチャクチャになってしまうよ」
 「はい」
 「お、珍しく素直だね。子供はそうでなくてはいけない」
 「また子供だって言う。もう大人だって言ってるのに」
 「そうだった。口が滑った」

 教団に初めて来た人は相談カードに住所・氏名・年齢などを記入する。相談員である指導教師がそのカードの備考欄に悩み事の内容や今後その人から期待出来そうなと言えば聞こえはいいが、要は搾り取れそうな金額を符丁で記載し、健介に渡す。健介は衝立で区切られた1画でそのカードを見ながら相談料の領収書を作成して渡す。相談料は1件3000円で、これについてはちゃんと税務申告しているから領収書を発行するのである。
 指導教師と呼ばれているおばさんの多くは話を聞くというよりも決めつけるような話し方をするから、健介が領収書を作成している間に相談の続きのように話をして行く人が非常に多い。指導教師に相談しても話を十分に聞いてくれず、不満が残るのだろう。金を出したり修行に参加したりというのは、悩みを抱えて来る人にとっては新たな1歩を踏み出すことだから、単に話を聞いてやるだけではその気にさせることは出来ない。従ってどうしても決めつけるような押しつけがましい話し方になってしまうのだろうと思う。相談料の支払いは同時に修行への参加申し込みになるという巧妙な仕組みになっているので、相談料の金額は小さいものの、その支払いにちょっとした心理的葛藤が生じて、そこでまた相談の続きのような話をしたくもなるのだろう。
 健介は相づちを打ちながら聞きはするけれども決して自分の意見を言ったりはしない。相手の話がとぎれても続きを促したりしないで、ただ黙って待っている。自分は相談員では無いということに徹しているのだ。こんなインチキに関わりたくない、自分は経理処理しているだけでインチキとは無関係だと思いこみたいのである。
 それで健介は相談に来る人とは必ず顔を合わせる訳だが、極力顔は見ないようにして俯きながらペンを走らせている。走らせるという程書くことも無いので、書く振りをしているだけのことが多いのだが。橋本亜紀と綺麗な字で書かれた相談カードを持って健介の所に廻されて来たのは年の頃なら27〜28のいい女だった。綺麗に化粧してイヤリングやネックレスも派手なものを付けている。水商売風に見えるが、カードには事務員・26才と記載してあった。
 領収書と大きく書かれたその下に『兼修行参加申込書』と小さく書かれている用紙があり、その氏名欄に署名して貰い、3000円を請求した。ちらっと見ると、その女性がにんまり笑ってわざとらしくウインクする。なんだろう? 頭のおかしい女なのだろうかと思って思わず見つめてしまった。時々こういう女が来る。中には電波が飛んでくるなどと言う女もいるから今では少々のことには驚かなくなってしまった。橋本亜紀の視線を自然にそらして相談カードに目を移し、相談担当教師の名前を帳簿に書いていると女が言った。


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