亜紀-29
「やっぱり買っておいて良かったでしょう」
「ああ」
「あら変なシミが付いてる。これを穿いて寝た?」
「いや、だから滝に打たれた時に穿いただけだ」
「管長補佐も一緒に滝に入ったの?」
「ああ」
「あの服で?」
「ああ」
「それじゃ透けたでしょう」
「ああ、それはそうだ」
「それ見て漏らしたの?」
「何が?」
「このシミよ」
「何? あっ、それはおしっこだ」
「おしっこじゃないわ。私子供じゃ無いから分かるわ」
「気にするな。おい、どうした?」
「・・・」
「おい、なんだ泣いてるのか」
「・・・」
「おい、止せ。泣くなよ。泣くようなことじゃない」
「じゃどうしてこんなシミがあるの?」
「渋々なら誘いに乗ってもいいと言ったんじゃないのか?」
「それで誘いに乗ったの?」
「あ、いや・・・」
「どうしたの?」
「透けた服を見ていたら、やっぱり男だから刺激を受けてな・・・」
「それで?」
「それで出た」
「本当?」
「ああ」
「本当にそれだけ?」
「ああ、それだけ」
「それだけで出ちゃうの?」
「ああ、あの女は色気の塊だからな」
「・・・」
「もう泣くな。君の為にやったことじゃないか」
「・・・」
「僕は女の涙に弱いんだ。な? 機嫌を直してくれ」
「私買い物に行って来ます」
「大丈夫か? 一緒に行ってやろうか?」
「いいです、1人で行きます」
「そうか。言うまでも無いが電車に飛び込むようなことじゃないんだからな」
「フン」
夜はすき焼きに刺身にテンプラと山のようなご馳走だった。命の恩人がだいぶ効いたなと思ったが今更訂正しても遅いし、事実とも言えるからそのままご馳走になった。部屋の契約のことを話そうとすると亜紀が私に任せないと話を遮るので此処は任せておく方が良いのかと思った。部屋に引き上げると亜紀が風呂に案内してくれた。ともかく1杯と慣れない酒を飲まされたので風呂に入って直ぐ寝ようと思った。ひとまず落ち着いてから先のことは考えれば良い。うとうとしかけると部屋の明かりがぼんやりと薄明るく点いた。これは妙なことがあると思ったら、女が透けた服を着て立っている。幽霊か、それとも管長補佐の夢でも見ているのだろうか。僕は酔っているのか、それとも寝ぼけているのか。女がベッドに上がり込もうとするので思わず
「何者だっ」
「厭だ、私よ」
「ああ驚いた。幽霊かと思った」
「私の方が驚いたわ。何者だなんて時代劇じゃない」
「この電気はなんだ、薄気味悪い」
「これはあそこのボタンを廻すと明るくなったり暗くなったり調節出来るのよ」
「それじゃ明るくするか暗くするかどっちかにしてくれ。こういう薄ぼんやりした明かりは嫌いだ」
「それじゃ明るくするわ」
「何だそれは?」
「ネグリジェ。あっちは水色だから私はピンクにしたの」
「下着はどうした?」
「穿いてないの。汚いだの洗い晒しだのうるさいこと言うから」
「子供だと思っていたが体はやはり大人だな」
「あら、立ってないじゃない」
「おい、気安く人のオチンチンに触るな」
「人のって言ったって私のオチンチンなんて無いんだもの」
「当たり前だ」
「やっと立ってきたわ」
「僕は据え膳なら遠慮しない主義なんだぞ」
「それで管長補佐も遠慮なく食べたの?」
「いや、それは無い」
「本当かしら?」
「本当だ。もう此処まで来たら止まらないからな。今更逃げるなよ」