亜紀-14
「小野田さん見かけに寄らず教養あるのね」
「見かけに寄らずは余計」
「だってちょっと見はパッとしないおじさんだもの」
「パッとしないおじさんに小判鮫みたいに食らいついているのは誰だ」
「小判鮫は良かったわね。ねえ今度は何するの?」
「そうだな、買い物は君がしてくれたからもう何もすることは無いな」
「それじゃいよいよやる?」
「やると言ったってそんなに簡単には行かない」
「どうして?」
「相手は難物だ」
「私のこと?」
「馬鹿」
「小野田さんのこと?」
「何を言ってるんだ。教団のことを言ってるんだよ」
「ああ、そのことか」
「なんのことだと思ったんだ」
「セックスのことだと思った」
「セックス? 君は何を言ってるんだ。頭がおかしいのか」
「だって綺麗な下着を穿いて来い、いよいよやるって言うから」
「いよいよやるって言ったのは君の方だ」
「ああ、だからいよいよやるのかと思って」
「君はそんなことをしに来たのか?」
「だって小野田さんがそう言ったんじゃない」
「呆れた。それでそれでもいいと思って来たのか」
「自分で言った癖に何だったのあれは? 今になって怖くなったの?」
「40のおっさん捕まえて挑発しなくてもいい。ああ言えば来ないと思って言ったんだ」
「へえ、それじゃ来て驚いたでしょ」
「こいつ僕の言うことを本気にしていないな、馬鹿にしやがってと思った」
「本気にしたし、馬鹿にしていないわ」
「最近の若い子はセックスをスポーツか何かと心得ているみたいだな」
「あら私だって誰とでもやる訳じゃないわ」
「それは光栄ですな」
「それでどうするの?」
「セックスか?」
「違うわ。体験修行のことよ、色ボケ」
「酷いな、それは。君がセックスのことを持ち出した癖に」
「それを最初に言い出したのは小野田さんでしょ」
「ふん、まあ君と相談したところでいい知恵なんか浮かぶ訳が無いから、僕が1人で考えてみる」
「何か妙案がありそう?」
「来週中に一度僕が山に行って見てくる」
「山って?」
「修行する場所を山と言ってるんだ」
「見てどうするの?」
「行って見てくれば様子が分かるだろう。そこに小さい寺があって留守番の若い子がいるからどんなことをやるのか聞いてこようと思う。それからどうしたらいいのか対策を考えてみよう」
「わあ、やっぱり小野田さん頼りになるわ」
「まだ何も考えていないのに」
「だって着実に前進しているもの」
「さあな、前進していると言えるかどうか。いずれにしろ君の為に僕は初めて山に行くことになった」
「ご免なさい本当に。頼りにしてますから」
亜紀は夕飯を食べて8時頃帰っていった。結局健介の家で10時間も過ごしたことになる。
翌日副管長に水曜日頃1人で山に行って修行の真似事をして来ようかと思うのだがと言った。副管長は高野山で修行したことのある本当の坊さんで、読経も上手い。亜紀には「本当の坊主など一人もいない」と言ったが、実は副管長は本当の僧侶である。管長と組んで金儲けに転身したのは感心しないが、管長や管長補佐と一緒になって贅沢をしている様子は見られない。きっと何かしらそれなりの事情があって管長に協力しないわけにいかないのだろうと思っている。今は割り切ってインチキに荷担しているという点を別にすれば、副管長は本格的に山籠もりして修行した経験があり、それなりの人物であると健介は思っている。