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亜紀
【その他 官能小説】

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亜紀-13

 「釘で止めたら駄目なのは分かっているわ、ちょっと貸してごらんなさい」
 「釘でどうするんだ?」
 「ほらこうやって少し釘を打って抜けば穴が開くでしょ。そこにネジを入れればいいのよ」
 「・・・」
 「ネ、綺麗に止まったでしょう?」
 「・・・」
 「ほら、出来上がりよ。小野田君」
 「何が小野田君だ。今僕もそうやろうとしていたところだ」
 「指を怪我してから思いついても遅いわ」
 「君の親父は大工なのか?」
 「厭だ、違うわ。こんなこと誰でも出来るわよ」
 「人間誰でも取り柄はあるんだな」
 「負け惜しみ言って」
 「いや、素直に褒めているんだ」
 「全然素直じゃないわ」
 「君がいると僕の脳波が乱れるみたいでどうもいけない」
 「あら、それって私が好きだっていうこと?」
 「はあ? 一体どういう性格してるんだ君は」
 「こういう性格」
 「いい性格してるな」
 「はい、皆さんに褒められます」
 「それは褒めてるんじゃなくて呆れているんだ」
 「掃除と洗濯と大工仕事が終わったから後は繕い物ね」
 「それは僕がやる。釘とカナヅチでやられたら堪らんからな」
 「あんなこと言って。よっぽど悔しかったのね。ご免なさいねプライドを傷つけて」
 「いいから君は少し休みなさい」
 「それじゃ少しCD見せて貰おう」
 「なんでも掛けていいから」
 「あらボタンなら私が付けて上げるわ」
 「いやボタン付けなら慣れているから君より上手い」
 「本当ね、上手ねえ」
 「そうさ」
 「人間誰でも取り柄はあるのね」
 「真似するな」
 「ねえ、この三声のシンフォニアって次の課題曲になっているんだけど聴いてもいいかしら」
 「ああ、じっくり聴いて勉強していくといい。君が弾くとツェルニーみたいになってしまうだろうが」
 「それはどういう意味?」
 「つまり糞面白くも無い曲になってしまうだろうという意味だ」
 「あら失礼ね」
 「いや本当だ。保証する」
 「どうして? 私のピアノ聴いたことも無い癖に」
 「その曲はどれも単調で山場が無い。そういう曲を聴かせるというのは大変な実力が無いと出来ないことに違い無い」
 「玄人みたいなこと言うのね」
 「弾くのは出来なくても聴くのは玄人だ」
 「本当ね、凄い数のCDね。ねえ、毎週日曜に此処に来て掃除や洗濯して上げましょうか」
 「それでCDを聴いて行こうというのか?」
 「うん、いいでしょ。聴いても減るもんじゃないんだから」
 「それは男が女をくどく時の文句だな。やっても減るもんじゃないからやらせろ」
 「厭だ、そんな口説き文句で口説かれる人がいるもんですか」
 「今君はそう言って僕を口説こうとしていた」
 「セックスとCDは違うでしょ」
 「まあいいか、聴きたければ貸してやる。尤もこれは貸せないというのもあるから、そういうのはテープにダビングしてやる」
 「私が此処に来ればそんな面倒なことしなくても済むじゃない」
 「君が此処に来ることくらい面倒なことは無い」
 「あら私が来ると迷惑なの?」
 「それで君の彼も別れたがったんじゃないのか」
 「あら失礼ね。あれは全然違うわ」
 「そうか」
 「あの人は全然下らない人よ。別れて良かったわ」
 「おや、自殺しないで良かったな」
 「本当よ、あんな下らない男の為に自殺なんてしてたかと思うとぞっとするわ」
 「女心と秋の空というのは本当だな」
 「男心と秋の空でしょ」
 「まあ、人の心は移ろい易く、諸行無常の響きありっていうことか」
 「なあにそれは?」
 「平家物語、それとも奥の細道だったかな。教養があり過ぎるとごっちゃになって分からなくなる」


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