ミントジュレップ-2
羨ましい。僕はユリに笑顔を向けながら、また嫉妬していた。
ユリは辛いけれど、それを云える相手が居る。
年子だから「お兄ちゃん」と呼ぶのが恥ずかしいと、ケンと呼んでいる兄。
ユリの親友の羽山理子。両親。
そして僕。
僕は一人だ。
話せるのはネットのモニタの向こうの、名前も知らない相手だけ。
両親にだって話せない。一人息子が当たり前に結婚してくれる事を願っているのだから。
ユリだって辛い。
解ってる。
でも僕も辛いんだ。
たった一人で味方も居ないんだよ。
僕は孤独だ。
僕も誰かに慰められたい。文字じゃなく、人に。
「吉田君は、優しいんだね」
違う。僕は多分、違う。
人を傷付けたくはない。だけど、ユリに云った言葉は違う。
あれは僕が云われたい言葉だから。
でも僕はそれを隠して優しく微笑んだ。
ユリは僕。
だから、微笑んであげなくちゃ。
それからユリと僕は以前より親しく話すようになった。
勿論僕は単に友達のつもりなのだけど、周りからは少しからかわれる。
けれど僕としたらその誤解はありがたい。
ちょっと満更でもない素振りをしたら、僕の心の奥は見えないようになるからだ。
僕は自分の為に、ユリを利用していたと云っても良い。
そんなある日。
放課後僕が一人でゴミ捨てをしていたら、谷町健吾が現れた。
「吉田君、ちょっと良いかな」
云われるがままに、僕は健吾について行く。着いた先は、人がめったに来ない用具室。
もしかしたら、ユリと付き合っていると誤解されて、殴られるんだろうか―――少し背筋が震えた。
ドアに鍵をして、健吾は僕を見つめる。
「急にごめんな、吉田君。ユリの事なんだ」
やっぱりか―――僕は慌てて、「ぼ、僕はユリさんと交際してる訳じゃ―――」と弁解した。
しかし当の健吾はきょとん、として首を横に振った。
「違うんだ。ユリの恐怖症の事だよ」
「え?ああ、高所恐怖症の事ですか」
ほっとした。殴られるのは嫌だ。
「ああ。頼む吉田君。人には云わないでくれないかな」
健吾は頭を掻きながら云う。
「あいつ、前はよくいじめられたんだ。高い所を本当に怖がるから、屋上に靴置かれたり。いつも俺が取って来てやってた。まあ、今は薬でなんとか抑えてるから目立たないけど」
健吾の言葉に、僕は驚いた。
「谷町さんくらい可愛い人でもですか?」
「女子には関係ないからね」
「ああ」
なるほど。
「だから、ユリは滅多に人には云わない。吉田君は云いふらす奴じゃないと思ったから、あいつもきっと話したんだと思う」
確かに、僕は人をからかったりはしない。
ユリも傷ついて来たから、人間性には敏感なのかも知れない。