[有害図書・前編]-6
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高校入試に向けて重要な授業だと解っていても、やはり倦怠感は襲ってくる。
何度かの休み時間を挟み、そして給食を終えて下足場に向かう。
そこの開けた空間に置かれたベンチに、愛が会いたくて堪らなかった人が座っていた。
誰あろう笹館尚人である。
『よお!』
「よッ!」
昨日の出来事を思い出した愛の頬は、まだ何も起きていないのに赤くなっている。
はにかみながら愛は尚人の隣に座り、恥ずかしそうに俯いた。
(耳まで熱くなっちゃってる…ッ…可笑しいって思われちゃうかな?)
二人の座るベンチの前を、何人もの生徒が行き交う。
愛は真っ赤になっている顔を他人に見られている事と、それが尚人にもバレている恥ずかしさに、ますます俯いてしまっている。
言いたい事がいっぱいあったはずなのに、今は一言も喋られない……。
『……あれ?日記帳は…?』
「……あっ!?」
フワついた気持ちは物忘れとなって表れた。
せっかく書いた日記だったのに、愛はカバンに入れたまま、ここに持ってくるのを忘れてしまっていたのだった。
『うっかりしたのか?……忘れん坊』
「ごめ〜ん…エヘヘッ」
軽いやり取りで緊張は解け、二人はいつもの調子を取り戻した。
自然な笑顔に軽妙な会話……愛は心から幸せだと思った……。
『……もう聞いてたか?二年の女子が変な男に声掛けられたって話……なあ、なんかあったら直ぐに俺に言いな?そいつブッ飛ばしてやっから』
尚人にポンと肩を叩かれて、愛はコクンと頷いた。
ぶっきらぼうだが優しくて、頼れる異性が傍に居てくれている事が嬉しかった。
今この場に他人の目が無かったなら、もっと心のままに喜びを表せられたのに……早くも今週末のデートが待ち遠しくなった愛は、昂った感情のままに瞳を潤ませた……。
『俺、これから早退するから今日は一緒に帰れないよ。ごめんな。でも明日は一緒に帰れっから』
「……うん……ッ!」
尚人の自転車に二人乗りして帰りたい……そう思ったから徒歩で来たのに……残念で淋しくて悲しくなったが、ここで困らせたくはない……愛はニッコリと笑うと気持ちを誤魔化すように後ろ髪を撫でた。