悠子-15
「奥さんもプリンス・メロンだったんですかあ?」
「いや、それ程ではない。でもやはり巨大だった」
「それで私のおっぱいが小さいなんて言うんだ。ドデカイ奴でないと駄目なんですね、マスターは」
「まあ、男だから」
「また。まあいいわ。そういうことにしといて上げる。それで奥さんは・・・、そうそう、タイ人のこと知ってたんでしたよね」
「ああ」
「何て言ってました? タイ人のこと」
「だから自分が勝った訳だから、余裕を持って笑いながら可哀想だったなんて言ってた」
「可哀想って何が?」
「トイレで泣きじゃくってるのを女房は見たんだ。ハンカチを出して渡したらイヤイヤって拒否されて、トイレに置いてあるティッシュを使って拭いていたって言ってた」
「そうでしょうね。打ち負かされたライバルですもんね、タイ人から見れば」
「うーん。まあそういうことになるな」
「奥さんだって外人に負ける訳には行かないって思ってたでしょうね」
「え? ああ、言って無かったか。女房も外人だよ」
「えっ? 奥さんもタイ人なんですか?」
「違う。フィリピン人」
「フィリピン人? マスターは外人が好きなんですか?」
「いや、おっぱいがデカければ別に日本人だっていいんだ」
「またおっぱいですか」
「つまり、女房も外人だったのは単に偶然だよ。でも外人は性格がいいってことあるかな」
「外人は性格がいいんですか?」
「性格がいいって言うと正確じゃないな。ちょっとまぎらわしいな。性格がいいって言うと正しくは無いかも知れない」
「いいですよ。言い直さなくても分かってますから」
「つまり外人は感情表現が豊かで素直なんだ」
「ああ、そうですね。でもそういうのが好きなんですか?」
「そういうのが好きって、そういう問題じゃないと思うよ」
「でも、そういうの如何にも外人っぽくて嫌いだっていう人も多いんじゃないですか?」
「あのね。こういうことがあった。僕は女房と喧嘩したことなんて無いんだけど1度女房を泣かせたことがあってね、その時女房があんまり子供みたいに大声出して全身で泣いてるもんで、笑っちゃったことがある」
「何で泣かしたんですか?」
「一緒になってもうだいぶ経った頃だったけど、その当時僕は相変わらず昼間の仕事をしていて、女房は夜の仕事をしていたんだ。それで女房が仕事から帰ってくると僕は寝ている訳だよ。時間的にそういうことになってしまうんだ。それで女房が帰ってくると僕は起きて暫くお喋りしたりしてそれから彼女が寝るのと一緒に僕も又寝るんだ。ところが、ある時起きるのが辛くてね、『ダーリン帰ったよ』って僕にキスするのを振り払ってドントディスターブミー、アイムスリーピングって言ったんだ。邪魔すんなよ、眠ってるんだからって言ったんだな」
「英語で喋ってたんですか?」
「ああ、女房の日本語は酷くて殆ど訳分からないからうちではお互い英語で喋ってたんだ」
「それで邪魔すんなよって言ったら奥さんどうしたんですか?」
「うん。ハッとしたように手をどけて暫く黙っていたと思ったら突然ワァーって凄い大声上げて泣き出したんだ。泣きながら『私貴方の奥さんじゃないの。邪魔する権利は無いの?』って言ってるんだ」
「邪魔する権利?」
「ああ、だから英語でそういう意味のことを言ったんだ。それで驚いて起きてみると彼女は全身を震わせて上向いて大口開けて泣いてるんだよ。子供がそうやって泣くだろう? そんな感じに」
「ああ、分かる分かる、分かります」
「それで僕はビックリするし、何より何だかおかしくなっちゃってね。思わず笑いながら彼女を抱きしめちゃったよ」
「奥さんはどうしましたか?」
「暫くイヤイヤって感じに身もだえしながら泣いてたけど、僕がクスクス笑ってるもんだから彼女も泣きやんで僕に抱きついて来た。僕は謝って『確かに邪魔する権利がある、いつでも僕を起こしてくれ。悪かった』って言ったんだ」
「でも寝ているご主人を起こすのはちょっと無神経なんじゃない?」
「そうじゃない。それが彼女の愛情なんだ。日本人なら確かに寝ているから起こさないで寝かして置いてやろうと思う。それが日本人の愛情表現だよな。僕も彼女に対してそうした。だけどフィリピン人はそうは思わないんだ。貴方の愛する私が今帰ったよっていうことをなるべく早く知らせてやるのが愛情なんだよ。だから起こすんだ」
「そういう考え方もあるのね」
「ああ。だからそれからはどんなに眠い時でも彼女に文句言ったことは無い。寝不足で死んだりする訳無いんだから」