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悠子
【その他 官能小説】

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悠子-16

 「でも、昼間の仕事している間はずっとそうだったの? 辛かったでしょう、体力的に」
 「いや、日曜なんか僕は仕事が休みだからうちにいるだろう? そういう時彼女はまだ寝ている訳だ。ワンルーム・マンションにいたから、別室で何かするなんてことは出来ないんだ。それで僕はカーテンの隅の方を下の部分だけちょこっと開けて洗濯挟みで挟んで、寝ている彼女に光が届かないようにして、そのちょっとだけ入ってくる光の所に本を置いて読んでいたんだ。すると彼女だって寝ている途中にトイレに起きることがあるだろ? トイレを済ますと僕の所に来てちょっと話してからキスして又ベッドに戻るんだけど、そうやって僕が不自由を忍んで彼女が寝やすいようにしていることは彼女にも分かるんだな。それで次第に僕を起こさなくなった。ただ帰ってきた時寝ている僕の顔にぶちゅっとキスするのはやめなかったけど、話しかけて起こすようなことはしなくなったんだ」
 「優しいんですね」
 「うん、それは優しかった。激しくてしかも優しかった」
 「違う。マスターが」
 「え? ああ、僕は普通だよ」
 「いいえ優しいわ」
 「そうかな」
 「ね、どうしてタイ人でなくて奥さんの方を選んだの?」
 「それはだから、前から女房のことは好きで口説いていたって言っただろう。なんか相手にされていないみたいに感じたから暫く遠ざかっていて、そしたらそこへタイ人が転がり込んで来てちょっと心が揺らいだって言うか、まあ迷いが生じたんだけど、女房が僕にコンタクト取ってきて仲が戻ってからはタイ人のことは眼中になくなってしまったよ。だってもともと好きだった女性とうまく行き始めたんだから」
 「それじゃタイ人のことも少しは好きだったの?」
 「それはそうさ。店に行って20人以上いる大勢の女の中から一番気に入ったのを選んだんだから」
 「一時はタイ人に夢中になった時もあったの?」
 「夢中という程ではないけど、一緒に1ヶ月も暮らしてごらんよ。誰だって可愛いところがあるし、やりたい時にやれるんだし、まあ、こいつと結婚してもいいかななんて考えたことはあったさ」
 「可愛い所があったの?」
 「それはあったさ。化粧が嫌いでスカートも嫌いなんだ、彼女。だけど僕がそういうの好きだって分かると毎日化粧してスカート穿いていたよ。スカートも化粧も全部僕が買ってやったんだけど。何しろ手帳ひとつ持っただけで逃げて来たんだから」
 「マスターはスカートが好きなんですか?」
 「うん。スカートって言ってもミニスカートのことだけど。彼女を連れて江戸川の花火大会に行ったことがあるって言っただろ? その時なんか、堤防沿いにかなり歩くのが分かっていたから、ジーパンでいいって言ったのに彼女はミニスカート穿いてね。堤防の上の遊歩道を歩いている時そのフレアーのミニスカートが風にはためいて何か映画の1シーンみたいに綺麗だった」
 「やっぱり彼女もマスターのこと好きだったのね」
 「それはそうさ。僕の所に来てその後直ぐセックスしたって言ったと思うけど、ホテルでやった時のセックスと全然違うんだ。ホテルの時は感じたフリをしていたんだな。僕は『おっ、こいつ感じてやがる』なんて思ってちょっと得意になってたんだけど、うちに来てやった時はまるで反応が違うんだ。まあ、セックスの様子なんか詳しく言えないけど、今度こそ本当に感じてるんだよ。好きでなけりゃあんな風に感じたりはしないよ」
 「ホテルの時は騙されてたの?」
 「ああ」
 「それで『おっ、こいつ感じてやがる』なんて思ったの?」
 「うん、まあ相手はプロだから上手いんだ。工場長が言うには、タイの田舎の貧しい家の女の子なんて初潮が来る前から体を売らされるのが普通で、14〜15才ならもう十分ベテランだよなんて言ってた」
 「彼女14〜15才なの?」
 「いやいや、彼女は20は過ぎていたと思う。 14〜15才になればセックスのベテランになってるっていう話し」
 「マスターも面白い人ね」
 「何が?」
 「だってコロッと騙されて得意になってるなんて」
 「だから相手はプロだから。騙すのも芸の内だから」
 「男って単純なのよね」
 「君も感じたフリして男を騙すことがあるのか?」
 「だからピンサロにいたって言ったでしょ」
 「そういう所も感じたフリをしてやる訳か」
 「『あっ』なんて言うだけで喜ぶのよ」
 「ちぇっ」
 「何が『ちぇっ』なの? あ、ホテルで彼女もそう言ったんだ。『あっ』て」
 「さあ、忘れたな」
 「単純ねぇ、男って」
 「男は感じたら立つんだ。女は感じても開いたり立ったりしないだろ? だから男は女みたいに感じてないのに感じたフリなんて出来ないんだよ。単純とか複雑とかいう問題じゃなくてそういう風に出来てるんだ」
 「体の事なんか言ってないじゃない。感じたフリしてるのを見抜けるかどうかっていうことを言ってるのよ」
 「だから男は感じたフリなんか出来ないから、女がそんなことしてるなんて疑いもしないんだよ」
 「だから単純だって言うのよ」
 「ふん。単純と言うより純真と言って欲しい」
 「純真ねぇ。まあ、単純真なのね」
 「何だ? 単純真って」
 「単純で純真」



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