投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

悠子
【その他 官能小説】

悠子の最初へ 悠子 10 悠子 12 悠子の最後へ

悠子-11

 「それで嘘みたいな話なんだけど工場長は昔大きな建設会社にいてね、そこがタイでダムか何か大きな工事を受け持った時に現地に行って労働者の監督みたいな仕事をしていたらしいんだ。それでタイ語が少し喋れるんだよ。少しって言ってもかなり喋ってたみたいに思うけど。尤も彼女はコンキャンという北部の出身で、工場長がいたのは別の所らしいから少し言葉が違うとは言っていたけど、まあ何とか通じるんだ。そんなこともあって彼女を引き受ける気になったんだろうし、彼女の方も大人しく工場長に付いていく気になったんだと思うよ。言葉が通じる人がいるっていうのは心強いからね。だけど、そのお陰で僕は工場長の送別会参加費を払わされた。それくらいは仕方無いけど」
 「そうね」
 「それで送別会が終わったら工場長はそのまま其処から車で帰るから一緒に店に連れてっちゃえって言うんだよ。そうすればタイ人を一緒に乗せて帰るのに都合がいいと言うんだ。中国人だのね、あっ中国人じゃないのかな、日本人かも知れないけど残留孤児の子供なんて中身は全く中国人と一緒だよ。片親は中国人だし、中国で生まれ育って考え方も性格も日本人とは全然違うんだ。そういう人達や口うるさい田舎のおばちゃん連中をひとまとめにして面倒見てる人だから工場長は豪傑なんだ。店には僕の女房になる女が働いているからって僕が渋ってもへいちゃらなんだ。それで仕方無しに送別会に一緒に連れて行ってね」
 「奥さんに気付かれなかった?」
 「気付かれるも何もタイ人のことは前から女房には話してあったんで、店に連れて行ったら興味津々さ」
 「話してあったの?」
 「ああ、僕は秘密は嫌いだから何でも話しちゃう」
 「それで何かあったの? 店で」
 「別に何も無い。ただ、後で女房に聞いた話だとタイ人は店のトイレで泣いていたらしい」
 「なんで?」
 「まあ、僕の所に帰れば又甘い生活が始まるって期待していたんだろうな。そしたらもう別の女性がいたもんでショックを受けたんだろう」
 「そうかあ、そうよね。僅か5日間のことだものね」
 「だからそれは違うと言っただろう。女房と知り合ったのはもっと前のことで、僕は一生懸命くどいていたんだ。それがうまくいかなくてちょっと付き合いが途絶えていた所にタイ人が飛び込んできたんで、順序が逆なんだよ」
 「それにしても僅か5日間にねえ。男っていうのはしょうが無いわね」
 「だから順序が逆なんだ」
 「で、それからそのタイ人はどうしたの?」
 「うん。あっ、いらっしゃいませ。ほら、お客さん」


 「ね、マスター。昨日の続きだけどそのタイ人はそれからどうしたの?」
 「ああ。それから1週間くらいして工場長から電話があって『警察に行くから場所を教えてくれって言うんで教えたら独りで歩いていったよ。国に帰りたくなったんだろ』って言うんだ。それで僕もほっとしてね。やっと肩の荷を降ろした気分になったんだけど、話はそれで終わらなかったんだな」
 「どうなったの?」
 「それから又1週間くらいして深夜に彼女から電話がかかってきた」
 「国際電話?」
 「と思うだろ。僕もそう思った。何喋ってるかは分からないけど彼女だっていうことは声で分かったから」
 「まだ日本にいたの?」
 「そうなんだ。それから直ぐ日本語の達者なタイ人に替わって話したから、いろいろ事情を聞くことが出来たんだけど、警察に行ってパスポートは無いって言ったら、そういうことはタイ大使館に行って相談しなさいって言われて大使館の電話番号書いた紙を渡されたまま放り出されたって言うんだな。不法滞在だってことは分かりそうなもんだけど、どうもそういうことは入国管理事務所の管轄で警察は独自には動かないっていうことらしい。それで彼女は今新宿でお客を捕まえて売春して金を稼いでいるって言うんだ」
 「へーえ。何か奇想天外な話ね」
 「そうなんだよ。で、それから毎晩彼女は僕に電話してくるようになってね。暇なんだろ」
 「奥さんは?」
 「いや、彼女が電話してくるのはいつも12時頃なんだ、夜の。で、女房は夜の仕事だろう? それで仕事に行っていていないんだよ。僕は毎日深夜の3時頃に電話で起こされて女房を店まで車で迎えに行くんだ。出勤する時は会社の仕事の合間を縫って会社の車で送ってやっていたんだよ。それで夜は彼女を連れ帰ってから又一眠りして朝起きて会社に行くだろう? それが、もう1回12時頃に起こされる訳だからたまらなかった。良くあんな生活が続いたと今でも不思議に思う」


悠子の最初へ 悠子 10 悠子 12 悠子の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前