『第2章 その秘密の出来事は』-10
シンチョコ名物『アーモンド入りチョコレート』をつまみ上げて、利恵は不意に顔を上げた。
「そうそう、秋月くん、うちの息子がお世話になってるそうじゃない」
「え?」
「南中の剣道部。中二の遙生」
「ええっ?! 彼は先生の息子さんだったんですか?」
利恵はにこにこ笑いながら言った。
「そうよ。ダンナが怪我する前に授かってたの。間一髪ってやつね」
「おお、それはよかったっすね」修平がコーヒーを飲み干した。
「お代わりどうや? 修平」
「あざーす。いただきます」
ケネスは席を立ち、テーブルを離れた。
「でも、確か篠原先生にはまだ小学校に通ってない嬢ちゃんがいませんでした?」修平もチョコレートの包みを剥がしながら言った。「ずいぶん歳が離れてるっすね」
「そりゃそうよ。ダンナは七年間不能だったんだから。二人目の娘は体外受精でようやくできた子なのよ」
「体外受精?」
「ご苦労されたんですね……」遼がしみじみと言った。
「子供二人は欲しかったからね」
利恵は何故かひどく切なげな目で向かいに座った遼を見つめた。
デキャンタを持って戻ってきたケネスはその利恵のカップに先にコーヒーを注ぎ足した。