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「そのチョコを食べ終わる頃には」
【寝とり/寝取られ 官能小説】

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『第2章 その秘密の出来事は』-11

2−3

 その日、帰宅した遼は、夕食のテーブルで亜紀と向かい合っていた。
「今まで黙っててごめん」
 遼はひどく申し訳なさそうに言った。
 いつになく神妙な顔をした遼を見て、亜紀は穏やかな口調で言った。
「遼はしょっちゅうあたしにそうやってごめん、って言うけど、意味もなく謝るのやめてね」
「え? で、でも」
「そんな昔のことまで遡ってあたし怒ったり不機嫌になったりしないよ」
 亜紀は遼の前にグラスを置いてビールを注いだ。
「つまり、貴男の初体験のお相手は、実は海晴お義姉さんじゃなくて、その利恵先生だった、ってことでしょ? どっちにしたって今のあたしとは何の関係もないじゃない。つき合う前のことなんだから」
「そりゃそうだけどさ……」
 遼は気まずそうに目をしばたたかせて頭を掻いた後、グラスのビールを一口飲んだ。
「海晴お義姉さんは知らないんだよね? このこと」
「う、うん」
「お義姉さんは貴男の童貞を奪ったって思い込んでるのよね。ちょっともやもやしない?」
「もやもや?」
「お義姉さんに嘘をついてる、ってことでしょ?」
「ま、まあね……」
「あたしから話しておいてあげようか? さりげなく」
「どういうきっかけで話すんだよ」
 遼は困った顔をした。
「ま、いずれね」
 亜紀は笑って箸を手に取った。

「あの当時、亜紀のクラスには授業に行ってなかったのかな、利恵先生」
「一年生の時は違う社会の先生だったからね。遼のクラスとは」
「実習生だった時からそうだったけど、今でも利恵先生は背筋が伸びててすごく姿勢がいいんだ。それにいつもにこやかな表情でしっかり目を見て話してくれるんだ」
「また抱きたくならなかった?」亜紀は悪戯っぽく訊いた。
 遼は赤くなって少し反抗的な目をした。
「ならないよ」
「昔好きだった女性との情事を思い出して、その時の身体の疼きが蘇る、ってドラマでよくやってるじゃない」
「ご心配なく。もうそんな気にはならないよ」
「そう。残念」
「なんだよ、残念って」
「どちらも家庭を持つ警察官と教師のダブル不倫。どきどきしちゃうな」
「君は二つの家庭を崩壊させる気?」
 亜紀は笑いながら生野菜にドレッシングを掛けた。
「でも、剛さんには申し訳ないことしちゃったな……」
「また謝ってる。なにを今さら……」
「だってそうだろ? あの時すでに先生が結婚の約束をしていた人なんだぞ」
「それを始めに聞いてたら、先生とそういう関係にはならなかった?」
 亜紀は悪戯っぽく訊いた。
「うーん……」
「男子高校生がそこまで冷静に考えて、目の前の据え膳に手を付けないなんてちょっと考えられないけど?」
「まあ、確かに……でもなあ、それが自分のいとこだって聞かされていたら、さすがに引いてたかも」
「考えてみればいろいろ奇遇なことが重なってるね。利恵先生は当時貴男が婚約者のいとこだってこと、知ってたのかな……」
 遼は皿の上のトマトに伸ばしかけた箸を止めた。
「それもそうだ……僕が秋月っていう名字だってことはわかってたわけだし……。ただうちが篠原家の親戚だっていうことをご存じだったかどうか……」

 亜紀は考えた。話を聞く限り、その利恵先生は早いうちから遼にアプローチしていたようだ。それはただの偶然だったのだろうか。愛する人に抱いてもらえなくなるという寂しさだけなら、男子生徒ではなく独身の教師か、一緒に実習をしていた大学生を狙っても良かったはずだ。それぞれにリスクはあるにしても、まだ青く未熟な、しかも未体験だった高校一年生の遼にわざわざ身を預けた理由が別にあるような気がした。


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