『第1章 その警察官、秋月 遼』-8
「勝手に喋るなよ、そういう超プライベートなこと!」
「だって事実じゃない。妻である亜紀ちゃんは知っておく権利があるわよ」
「だからあたしと初めてエッチした時も、あんなに余裕だったのね」
亜紀はちらりと遼を横目で見た。
「余裕? だったっけ?」
「ブラのホックの外し方が」
亜紀は肩をすくめた。
「あたしが教えてやって練習させたからねー」
海晴はあはは、と笑ってストローを咥えた。
「なんで海晴お義姉さんとそういうコトになっちゃったの?」亜紀は遼の顔を覗き込んだ。
冷や汗をだらだらかきながら黙り込んだ遼を一瞥して、海晴が言った。
「何があったか知らないけどさ、あの日遼ってばずいぶん落ち込んでてね」
「落ち込んでた?」
「いつになくやさぐれてたって言うか、自暴自棄になってたって言うか……」
「何かあったの? その時」
「いや……学校でちょっと……」
「当時親父は九州に単身赴任中、母ちゃんも怪我した甥の世話を頼まれて横浜に泊まりがけで出掛けてたから、家の中にはあたしと遼の二人だけ。なかなかときめくシチュエーションでしょ?」
「なに他人事みたいに言ってるんだ」遼は上目遣いで姉を睨んだ。
「この人に襲われたんですか? お義姉さん」
「ううん。見かねてあたしが誘ったの」
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遼(16)の部屋のドアを開けて、缶ビールを手に持ったタンクトップ姿の海晴(22)は中にいたその弟に声を掛けた。
「遼」
「なんだよ。勝手に入ってくるなよ。ドアにも張り紙がしてあるだろ」
「なによ。中学生みたいなこと言って。もしかして一人エッチを始めるところだった?」
「ばかっ!」
風呂から上がったばかりの遼はバスタオルで頭をがしがしと拭きながら鋭い目つきを姉に投げた。
海晴はドアを後ろ手に閉めて、遠慮なしにずかずかと部屋に入り込むと、遼のベッドに腰掛けた。
「どうしたの?」
「どうした、って?」
「なんか今にも酒に手を出しそうなやさぐれ方じゃない。飲む?」
海晴は半分ほどに中身の減った缶ビールを持ち上げた。
「未成年に酒を勧めないでくれないかな」
「警察官みたいなこと言って……。反抗的な態度の割にくそまじめなのね。ま、それがあんたのキャラなんだけどね」海晴は呆れた様に笑って、ビールを一口飲んだ。
「出てけよ、部屋が酒臭くなるだろ。それに何だよ、そのはしたないカッコ。恥じらいってものはないの?」
ブラをつけないままの乳首が浮き出たタンクトップの細い肩紐を掛け直し、短いピンクのショートパンツ姿の海晴はにやにやしながら言った。
「欲情する?」
「ばかっ!」
ふふん、と鼻で笑って、海晴は立ち上がり、遼の前に立った。
「ねえねえ、お風呂も済ませたことだし」
そして目の前にしゃがみ込み、遼の両肩に手を置いた。
海晴は口角を上げた。「気晴らしにさ、やってみない?」
「え? 気晴らしに? なにを?」
「sex。あたしと。今からここで」
遼は絶句して目を見開いた。そしてみるみる顔を赤くした。
「家の中には二人きりだし。どう?」
遼は姉のタンクトップ越しの乳房に目をやり、ごくりと唾を飲み込んだ。