Relaxation's CHOCOLATE-1
萩原コノ子、14歳、受験生。
受験生だって…。嫌な響きだこと。せっかくの夏休みだっつぅのに、自宅勉強、進学塾、毎日毎日勉強ばっかり。遊ぶ暇なんぞありゃしません。今日も朝から過去問題集を解いてるし。扇風機の生暖かい風が勝手にページをめくり、その度に直す。もう何回目だよ…そろそろイライラの限界だよ、この忌々しい風がっ!!だけど、止めることは出来ないのです。外は無風。窓を開けているにもかかわらず、風は一切入ってこない。入ってくるのは、蝉たちの大合唱だけ。あーっ、やかましいっ。集中なんぞ出来るか！アタシはシャーペンを投げ出し、椅子から下りてベッドにダイブした。一瞬ひんやりするベッド。だけど、アタシの体温ですぐに温かくなる。あ〜、どうせならこのまま溶けちゃいたいなぁ。
―パッパーパッパ…。
ピンクレディーの『ペッパー警部』はアタシのメール着信音。よろよろと携帯電話に手を伸ばし受信BOXを開く。
from：哲希
subject：ヨォ！
勉強頑張ってるか？明日さ息抜きとして、コノん家の近くの公園でのんびりしない？あそこは木が生えてて日陰多いからさぁ。芝生でゴロゴロとか最高じゃん！11時に公園で待ち合わせでどうだ？
あぁ、グッドタイミング！さすがマイダーリン♪このイライラは、夏休み中一度も哲希と会っていないことも原因の一つと考えられる。なので、もちろん返事はイエス。すぐに返信をしてアタシはまた勉強机に向かった。俄然やる気が出てきたぞっ！それから数時間、アタシは方程式を解きまくり、葉の断面図を模写し、江戸時代をまとめ、比較級と最大級を完璧にし、漢字練習をした。
そして、アタシは御飯を食べてお風呂に入って、夜の９時にはすでに深い眠りについていた。
「哲希ィ！待った？」
「マテナイヨ」
「…何か話し方変じゃない？」
「ヘンクナイヨ」
「明らかにおかしいだろ！…さては…哲希じゃないなっ!?」
「ワタクシ水戸黄門ダヨォ！紋所目ニイレロ」
「ギャー！ヤダァッ！絶対痛いじゃんかぁー!!」
「コノ紋所ガ目二入ラヌカッ」
「入るかぁっ！イヤァ、こっち来んなぁーっっ!!」
…………
「ぬぅああぁぁ！」
何ちゅう夢を…時代がむちゃくちゃだろ！タコ足の黄門様って、オイ…。つぅか、今何時!?
「10時半て…」
つい声に出てしまう。これはヤバいっす！遅刻決定っす！
早く準備しなきゃっ!!
―トトトトドッカドガドガバッターン！
…前半は階段を勢い良く降りる音。後半は階段を勢い良く落ちる音。ものすんごい痛いよ？半端じゃないよ、これ。息が止まってんの、声出ないんですが…。だけど、見たところ外傷は少ないので、アタシは準備に取り掛かかることにした。イテテ…！
ふん、人間その気になれば何でも出来るもので、アタシは支度をするのに15分しか掛からなかった。今から自転車飛ばせば余裕で間に合う。
お母さんは仕事でいないので、アタシは玄関で涼しげに泳ぐ金魚の「カネコ」に元気よく
「行ってきます！」
と言った。